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物心両面の幸福を追求し、人類、社会の進歩発展に貢献する

松下幸之助 一日一話
10月30日 使命感半分、給料半分

人間には、“欲と二人連れ”という言葉もあるように、自分の利によって動くという面と、使命に殉ずるというか、世のため人のために尽すところに喜びを感ずるといった面がある。だから人を使うにしても、給料だけを高くすればいいというのでなく、やはり使命感というものも持たせるようにしなくてはほんとうには人は動かない。もちろん使命感だけで、給料は低いというのでも、これはよほど立派な人でない限り不満を持つだろう。普通の人間であれば、使命感半分、給料半分というところだと思う。

そのようなあるがままの人間性に則した処遇をしていくところに、適切な人の使い方があると言えよう。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

松下翁の仰る「使命感半分、給料半分」を、仮に経営理念(Mission)とするならば以下のようになるのではないでしょうか。

「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」(京セラ経営理念

稲盛和夫さんは、この経営理念を掲げ実践することで、京セラを世界に通用する大企業へと発展させただけではなく、世のため人のためにとNTTが独占していた通信の規制改革に参入することでKDDIの礎を築かれ、更には多くの識者たちから「不可能である」「晩節を汚すだけだ」と批判されながらも見事にJALを再建されました。

京セラの経営理念にある「物心両面の幸福」とは、「給料半分、使命感半分による幸福」のことであり、更に「人類、社会の進歩発展に貢献すること」とは、世のため人のために尽す喜びとなる使命感の具体的な行動のことであると言えます。常に、人の心を大切にし、心をベースに経営をされる稲盛さんらしいMissionでもあるとも言えます。

人間を動かすことになる使命感とは、「やる気」や「モチベーション」を生み出す要因であると言えます。つまりは、「やりがい半分、給与半分」と換言可能です。では、「やる気」や「モチベーション」に影響を与える要因とは何でしょうか?心理学的には、大別すると「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」の2つに分かれます。「外発的動機づけ」とは、給与面での待遇や職場環境の良し悪しなどといった外因的な要素によるやる気のことです。他方で「内発的動機づけ」とは、内因的な要素によるやる気のことであり、内発的動機づけに必要とされる3要素として、「主体的な行動であること」「有能感を持てること(優越感ではない)」「他者との良好な関係性が保たれていること」とされています。

2つ目の、有能感と優越感を混同する人が多いので注意が必要になります。優越感というものは、他者との比較ありきの相対的な価値観から生まれるものですので、対象者よりも自分が優れている点を見つけては相手を見下し、対象者よりも自分が劣っている点を見れば強い劣等感を抱くことになります。有能感とは、他者との比較なしに自らの絶対的な価値観から生まれます。絶対的な価値観とは、自分自身の内面から生まれてきますから、相手となるのは自分自身となります。

具体的には、優越感を持っている人間というものは、あまり他人を高く評価するということがありません。むしろ他人を低く低く評価しようします。他人への評価が低いということは、相対的には自分の評価が高まることになりますので、他人の粗を探しては問題点や欠点ばかりに目を向けます。当然のことながら、優越感を持つ人間が他者との良好な関係性を保つことは困難になりますので、内発的動機づけにおける3要素が同時に満たされることはありません。

他方で、有能感を持っている人間というものは、自分自身がプロフェッショナルやスペシャリストであるという意識を持っていることが多いと言えます。プロフェッショナルたちは、自分と同様のプロフェッショナルたちをとても高く評価します。なぜならば、自分がプロフェッショナルとしての自信を持つまでにどれだけの努力や苦労を費やしてきたのかを経験しており、その過程を経なければどんな道でもプロフェッショナルにはなれないと認識しているからです。

基本的には、劣等感を持つ人間は劣等感を持つ人間とコミュニティを形成しやすく、逆に有能感を持つ人間は有能感を持つ人間とコミュニティを形成します。異なる両者が同じコミュニティを形成することは稀であると言えます。


翻って、給与面における外発的動機づけについては、2015年ノーベル経済学賞を受賞した経済学者アンガス・ディートン教授の「収入と幸福感の関係性に関する研究」によると、人の幸福感は年収の増加と相関して上がり続けますが、年収が7万5,000ドル(1ドル=109円換算で約817.5万円)を超えると、幸福の感じ方が鈍くなって相関性が緩やかになるという結果になったそうです。

これは、米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグによる二要因理論(動機付け・衛生理論)における衛生要因が満たされた後、動機づけ要因を重視するようになる起点、或いは、マズローの欲求5段階説においては低次の欲求(「生理的欲求」「安全欲求」及び「社会的欲求」)が満たされた後、高次の欲求(「承認欲求」「自己実現欲求」)を重視するようになる起点となっている可能性が高いのではないかと私は考えます。

つまりは、衛生要因や低次の欲求が満たされた後、動機づけ要因や高次の欲求を満たすためには、「自らが社会の中で為すべき使命」を明確にすることが重要になってくるということです。

もう一度、京セラの経営理念に目を向けてみますと後半部分の「人類、社会の進歩発展に貢献すること。」という使命は、動機づけ要因や高次の欲求を満たすものであると言えます。

最後に、森信三先生は「仕事における給与について」以下のように仰っています。

「真に意義ある人生を送ろうとするなら、人並みの生き方をしているだけではいけないでしょう。それには、少なくとも人の一倍半は働いて、しかも報酬は、普通の人の二割減くらいでも満足しようという基準を打ち立てることです。そして行くゆくは、その働きをニ人前、三人前と伸ばしていって、報酬の方は、いよいよ少なくても我慢できるような人間に自分を鍛え上げていくんです。」(森信三著「修身教授録」より)

森先生のお話を具体的な数値として考えてみますと、仮に労働時間が週40時間(1日8時間×5日。月160時間)で30万円の給与があるならば、それに対して人の一倍半の労働と二割減の給与となると、月80時間の残業をプラスしているにも関わらず24万円の給与となります。
前者は時給1875円、後者は時給923円(残業は1.25倍換算)となります。森先生は、実質的には「時給は半額で我慢しなさい」と仰っています。

実質的に給与を半分にした上で自分を鍛え上げるということは中々難しいことですが、「使命感半分、給料半分」という人間性に則したモチベーション・マネジメントは、自分に対しても他者に対しても心掛けたいと私は考えます。



※記事:MBAデザイナーnakayanさんのアメブロ 2018年10月30日付 を読みやすいように補足・修正を加え再編集したものです。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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