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詩「12月の朝」

真っ赤な分厚いセーターを、クローゼットから出す。
お気に入りのセーターで、全身が毛糸の匂いに包まれる。

居間のストーブをつけて、クリスマスの音楽を流す。
木琴やグロッケンの響き、鈴の音、澄んだ香りのような音楽。
青森のりんごはつやつや。
熊本のみかんも机の上に置く。
ノートを広げて、万年筆で書き始めれば、紙の香りがする。

まだ寒い台所は、少しだけしっとりした外の空気。
野菜とソーセージを鍋に放り込み、シチューを作る。
最初に人参を煮込み、最後にはルーを入れる。
温かく美味しそうな匂いが台所に広がる。

もうすぐやってくるクリスマスを思う。
自分のところに星々が降りてくるみたい。
寂しかったことも、つらかったことも、
流した涙の全てが、星々の輝きに紛れて消えて行く。

クリスマスは12月の空気の中にただよっている。
その匂いと空気を感じると
こころは、はしゃぐ小さな子供に戻る。

そり滑りのボートを抱えて走り
全身を雪に埋もれるようにして遊んだ12月。
息を弾ませ、汗ばんだ匂いのその子供は、
今も私の中にいる。

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