酒がやめられない父親と娘の話④

包括支援センターの〇〇さんからお話を伺っております。通所のリハビリデイサービスの〇〇と申します。〇〇さんの娘さんの携帯ですか？

はいはい。その、朝から飲んだくれてる人の娘ですけど、なんでしょうか？なんですか？何かやらかしましたか？うちの父が！！

実は、今日は当所のリハビリに体験でお父様に来所していただいたんですけど・・・

けど？けど？心臓が痛い。痛い。痛い。

エアロバイクでトレーニング中に足を滑らせて脛を怪我されたんです。結構深い傷になってるんです。こちらの不注意でこんな事になってしまいまして誠に申し訳ございません。

ああああーーーーー。謝らないでぇー！！

リハビリに行くのを知ってて酒を飲んだのか？

とんでもないです。謝るのはこちらです。恥を忍んで言いますけど、覚悟はいいですか？と己に申す。

父は朝からお酒を飲んでそちらに伺ったんです。酒を飲んで運動するだなんて・・・私も言葉に詰まる。申し訳ありません。嫌な思いをさせてしまって心苦しいです。ほんとすみません。

あ、朝からお酒を飲まれるんですか？このセリフ何回聞いただろうか？そして、私は答える。

はい。朝から飲むんです。父は・・・。しかも、リハビリに行く事になってるのを知ってて飲むとは本当に何と言って良いのか。はらわたが煮えくりかえる。いや、煮えくり返るハラワタも残ってないけどな。

そーでしたか。そーだとしても、こちらの落ち度です。ちゃんと見守ってればこんな事にはならなかったので、先日、蜂窩織炎(ほうかしきえん)で入院された様なんですが､念のためそちらの病院に診察させて貰う手続きをしてのでこれから向かいます。それでなんですが､帰りは迎えに来ていただけますでしょうか？

なんと、ご丁寧に､診察の手筈までして頂いて有難いやら申し訳ないやら。父はこの電話に出れますか？私から直接話したいと思うので。

はい。お父さんです。はあっ？お父さんですだぁ？あんたなんか父親でもないわ！！と怒鳴りそうになるのを抑えた私は偉い！！

リハビリに行く事を知ってて朝から飲んだんですか？それがこんな結果になりましたけど？それと､私は迎えには行けません。私にも用事があるのでタクシーで帰って来てください。よろしいでしょうか？どこまでも敬語で話す。淡々と。そうでもしないとこの感情を爆発させてしまいそうだったから。

飲んだのは朝だから大丈夫かと思ったんだ、、、声が小さくなるオヤジ。　　　　　　　　　　　わかった。タクシーで帰るから心配しないで良いよ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　はあ？心配なんてするかっー！！施設の方に代わって下さい。

申し訳ないのですが、迎えには行かれないので本人にタクシーで帰る様に伝えましたので､本当にご迷惑をかけてすみませんでした。

そして､私はzoomで会話を楽しんでいた所に再び電話。

先程、電話させて貰った〇〇です。今、受診が終わったんですけど､七針も縫う怪我だったんです。本当に申し訳ございませんでした。

どーか、どーか、謝らないで下さい。こちらこそ申し訳ない気持ちでいっぱいなんですから。

それで、タクシーで帰って頂くのも忍びないので自宅まで送り届けましたのでご安心下さい。

あぁーーーーー。なんて事。そこまでしていただいて言葉もありません。ありがとうございます

また改めて、娘さんとご相談しながら話を進めたいとおまいますのでよろしくお願いします。

私はここのデイサービスを紹介してくれたケアマネさんに電話をかけた。

きっと、酒を飲むようならば話は打ち切ります。って言われるだろうな。当然だよな。ここまで周りが手を差し伸べくれてるのに､酒でこんなにも迷惑かける老人に誰が支援してくれるってんだよ。世間は甘かないわ。

事の経緯を話した。朝から飲んでリハビリに行くだなんて普通じゃ考えられませんよね。本当に今から行ってぶん殴りたい気持ちです。そして、こうやって周りに支援して貰っているのに酒が原因で迷惑をかけるだなんて、呆れられて誰も引き受けてくれなくなると思うんです。家族はそれでもそれなりに受け止めるしかないんですけど、、、その先の言葉が出ない。

そこでケアマネさんが優しく私に言った。

お父様はきっと初めてのディサービスで緊張されてたのかも知れませんね。だから飲んじゃったのかもしれません。それと、朝からお酒を飲んでしまうお父様も含めてお父様だと思ってますから。お気になさらずに色々これからも相談して下さいね。

泣くでしょ。泣くわ。泣いてしまうわ。泣かせて欲しい。

神様なの？菩薩様？阿弥陀如来？えっと、、､思い付く神様仏様の顔が浮かぶ。見たことないけど、きっとこんな人、そしてケアマネさんがそんな人。

私の気持ちが、落ち着きを取り戻し、実家に向かった。深呼吸して入る。　　　　　　　　　　　縫ったんだって？痛かったでしょ？

特に、大丈夫だ。言葉少ないオヤジ。ケアマネさんにも連絡したよ。明日にでも様子見に伺いますって。

それ以上、言えなかった。ケアマネさんの、朝から飲んじゃうお父様も含めてお父様ですから。の言葉が頭から離れなかった。朝から飲んじゃうのはどーにも止められないんだ。それも含めてオヤジな訳で、私の為に人生生きてる訳じゃないもんな。好きな様にしたら良いんだよね。私も好きな様に生きたいもん。

初めてだ。こんな気持ちになったのは。いつだって、迷惑かけやがって、心配させやがって！！って思ってるだけだったな。別に私を安心させる為に生きてる訳じゃない。と心が平穏になっていった。

次の日、昨日はご迷惑おかけしました。今日から禁酒をします。オヤジからのメールが届いた。

ちょっと笑っちゃった。禁酒するんだ？

また飲んでしまっても禁酒するぞ。と思うお父さんを尊敬します。無理せずにどーぞ。と返信した

足の痛みもあるだろうからと、おかずを届ける為に朝早く実家に向かった。起きてる様だ。

玄関に立つと、リビングで食事を取ってるオヤジがいた。

人の気配に気がついたのか？振り返り、私だと気がつくと、、、

コップに並並と入ってる焼酎を隠そうとあたふたしてる。テーブルには焼酎のペットボトルが鎮座しておるぞ。

ちょっとーーー！！隠すんじゃないっ！早朝から捜査官がガサ入れに潜入するが如く、叫んだ。

ここ、笑う所だよね。笑うよね。流石だわ。期待を裏切らないわー。

鍵がかかってる。私は合鍵を使って潜入した。いや、家に入っただけですけど。

そのまま、仏壇に線香をあげて手を合わす。お母さん、この人、一体どんだけ酒が好きなのよ？

おかず作ってきました。それと！！一言

飲むならば、隠さず飲めよ、堂々と！！

上手くまとめた感。思わずドヤったわ。五七五でとっさに出てくる私の語彙力！！標語にしてトイレに張り付けてやろうか？

黙るオヤジ。静かにドアを閉めて帰る私。

なんだろ。自分で言ってなんだけど、私って才能あるんじゃない？笑笑よく、あの場面でとっさに言えたもんだわ。最高かよ！と一通り自分を自分で褒めちぎった

けども、けども、さー。やっぱり、これは誰かに聞いて欲しい。妹に連絡した。

期待を裏切らない私達のオヤジなんですが、やっぱり飲んでます。朝から。笑うわ。流石だわ。こうなったら葬式はビールかけして送り出そうよね？笑笑

妹の返信は

いや、日本で一番アルコール度数の高い焼酎にしようよ。そして、オヤジにかけてあげようよ。　よく燃える様に！！

笑笑。腹が捩れるほど朝から笑った！！

そして、私の妹があなたで良かったと心から思った。不仲の時期もあったけど、こんなブラックジョークをさらっと言い合える姉妹で本当良かったわ。

明日の事などわからない。この先もどんな事になるのかもわからないけど、一つ言える事は、兎にも角にも、アルコール度数の高い、値段も最高級の焼酎をオヤジの為に買う事を決めた。