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『決定版 ヒルコ 棄てられた謎の神』の感想文

前回に引き続き、戸矢学先生の著書です。

ヒルコは、イザナギとイザナミから生まれた最初の神であるにかかわらず、イザナミから先に声をかけたため、子として認められない不遇の神様です。

こちら、当時の中国と交易をするために作られた神話ですから、儒教の要素を入れたために子を棄てることになったのも納得できます。

自分の国にも神話があるうえ、中国と同じような思想ですというところをアピールするための理由もあったでしょう。

戸矢先生は、流し棄てなければならなかった理由を神話とは異なるもう一つの建国神話があったのではないかと説明します。

もう一つの建国神話は、中国の『史記』にあります徐福伝説を挙げています。

徐福伝説は、秦の始皇帝が徐福という臣下に不老長寿の薬を探させてしまったことがすべての始まり。

徐福は、海中の大神に会い、不老長寿の薬を求めていることを伝えるも、貢物が少ないために持ち出すことはできなかったと始皇帝に報告します。

とはいえ、見ることはできたので徐福は、蓬莱山という場所に行かせてもらい、どえらい宮殿を目にします。

なにを献上すればよいか大神に尋ねると、大神は良家の子女、あらゆる分野の職人とを献上すれば、不老長寿の薬を得ることができると答えました。

徐福の報告を聞いた始皇帝は大変喜び、徐福に男女の子どもを三千人、五穀の種子、全分野の職人を託して、送り出します。

しかし徐福は、彼の地にとどまり自ら王となり、始皇帝のもとへは戻りませんでした。

そういう伝説です。

とんでもない詐欺師。

この伝説で注目すべきは、徐福がとどまった彼の地がどこなのか。これが日本だと考えられています。

そしてこの団体が渡来人だとすれば、日本に多くの技術をもたらしたのも納得できるかも。

すべての分野の職人さんの中でも特に海上技術に特化した海部(あまべ)は、軍事力、経済力、宗教を得ていきます。

日本沿岸地域では、漂着物を手厚く祀ることにより、福の神になるという信仰がありました。
漂着した水死体をエビスと呼ぶことがあり、エビス=福の神となっていきました。

エビス神は天つ神にも国つ神にも入らない神様ですが、ヒルコ神は神話由来の神様です。

海部氏は氏祖神としてヒルコ神を選びました。

海部がヒルコを氏神にしたことで、エビス神と一体化していき、現在にも伝わるエビス信仰となっていきました。


戸谷先生は國學院大學で学ばれたこともあり、神道に造詣の深い方です。

私が一番驚いたことは、戸谷先生が『古事記』や『日本書紀』に著される日本神話は、実際にいた人や事件をもとにしているという説を推していたことです。

都市伝説では、この手の話は多くあったので、そういう見方もできるんだなぁという程度の納得具合でしたが、戸谷先生は専門家ですから、重みが違います。

確かに天武天皇に命じられて急に神話を作らなければならなかった人からすれば、実際にいた人や事件をもとに神話を作る方が楽だし、ある意味信憑性が出ると考えても不思議ではありません。

古神道での考えでも、人が亡くなってから神様になるので、もともと生きていた人を神話の人物にするのはむしろ普通。

私個人の考えですが、『出雲風土記』編纂も、『古事記』とほぼ同時期なので『出雲風土記』も神話を作るために命じられたのかも?

もし、神話が本当にあったことなら、日本の初めにある空白の時代に何があったのかの手がかりになるかもしれませんね。


『決定版 ヒルコ 棄てられた謎の神』では、さらにアマテラスとの関係や血脈についても深堀しているので、興味のある方は面白いかも。


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