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書評 前野隆司&前野マドカ著 「ウェルビーイング」を読んで

1.はじめに(本の紹介)

1.1 書誌情報

  前野 隆司 (著), 前野 マドカ (著) 2022/3/19 
 「ウェルビーイング」 日経文庫(出版)

1.2 本の紹介

 本誌は、話題のウェルビーイング(幸せ、健康、福祉)とは何か、基本的知識を著者夫妻がわかりやすく解説したものである。第一人者の2人が対話しながら書き上げ、具体的に、ウェルビーイングの広がりで、社会やビジネス、人間の生き方がどう変わるのか、その影響の大きさと、研究の最前線、実現策が理解でき、これからを生きるすべての人に必要である。

2.本書の重要な論点

2.1 序盤「ウェルビーイングとは?社会との関係」

本書の序盤ではウェルビーイングとは何か、定義やハピネスとの違い、言葉の分類、そして、なぜ今注目されているのかについて、学術的理由と社会的理由から説明している。そして、現代社会が求めるウェルビーイングについて、SDGsとの関連、経済成長から心の成長へ、限界を迎えつつある資本主義に対し、新時代の行く手を示す人たちを紹介している。そして、社会のウェルビーイングとして、仕事の現場として、健康経営や働き方改革政治との関係として、各国の事情や地域、団体での取り組みを紹介している。

2.2 中盤「ウェルビーイングの研究、経営との関係」

中盤からは多彩な研究として、ハピネス行動経済学ポジティブ心理学、因子分析からネットワーク分析、幸福学、遺伝子工学、健康や長寿との関連
など、具体的な研究事例が紹介され、幸福度を高める方法の研究も紹介されてる。幸せの4因子を高める方法、ウェルビーイングを高める、さまざまな方法、幸福度向上法、マインドフルネスとの関係性、学会紹介がされています。事例が多すぎるため、それぞれの事柄の解説は省略するが、その代わりに各事柄で共通することをあげる。それは、ウェルビーイングは学術として体系化されつつある、計測可能である、高めることができる、の三点である。

2.3 終盤「経営や地域家庭との関係、幸福度の向上事例」

そして終盤では、ウェルビーイングを推進する企業人として、ビジネスの可能性従業員のエンゲージメントとの関係性幸福度とパフォーマンスの関係、多様性との関係を示し、具体的な企業経営の事例を紹介している。伊那食品工業、西精工、ネッツトヨタ南国、ボーダレス・ジャパン、サイボウズなど、ウェルビーイング優良企業の押し付けない経営を紹介している。また、自治体の取り組みや夫婦の幸福度を上げる方法を紹介している。最後に、幸福度の計測事例として、具体的なウェルビーイングの測定方法向上させる活動の事例を紹介している。

3.問題提起と考察する内容

本書で著者は、新型コロナによる時代変化の加速と研究面の活発化、産業面での活用という観点からウェルビーイングを概念的に考察している。それに筆者からは、自身の会社での実施例紹介という観点を付け加えた三点で論評する。

3.1 新型コロナによる時代変化の加速と研究面の活発化

第一に著者は新型コロナは経済成長第一の時代からウェルビーイング第一の時代へのパラダイムシフトへの時代変化を加速したと述べている。まさに、この2年で社会構造は大きく変化し、大転換を果たしたと言えよう。会社に出社しない、学校に行かない、自宅で仕事や授業を受ける時代が自分が現役の間に実現しようとは夢にも思わなかった。命の確保という、種の根源にまつわる病の前では、人はこんなにも決断し、変化対応できる生物なのかと、改めて痛感させられた。そのプロセスの中で、大切にする価値観も大きく変化し、身体の健康と心の幸福、福祉という、ウェルビーイングへの価値の転換はある意味必然の流れと考える。
また、著者は心理学的・統計学的なウェルビーイングの研究は、今後もさらに活発化していき、バイタルデータ、AIによる研究、遺伝子工学、脳神経科学、医療福祉技術との融合など、さまざまな学問分野の再構築が進展し、理想的にはウェルビーイングという人類の共通目標に向かって統合に向かうと述べている。これまでの様々な分野での研究の成果がウェルビーイングという概念で体系化され統合されつつあることが素晴らしいことだと考える。人類が目指すべき目標として、人類の中で認識しゴール設定できた人が増えるにつれ、さらにその研究は進むと確信できる。

3.2 産業面での活用

第二に著者は、健康産業の拡張として、ウェルビーイングがさらに進展し、いま幸せな働き方が脚光を浴びているが、人々のウェルビーイングを第一に考えた、「ものづくり(製造業)」「ことづくり(サービス業)」「人づくり(教育)」など、広い意味でのウェルビーイング産業が大きく進展すると述べている。また、著者の懸念と同じく、自分だけ自国だけという一部の考え方が進まないことを切に祈りたい。ウェルビーイングを真に制するものが、産業を真に制すると言えると思う。上部だけ言葉だけのウェルビーイングでなく、正しい理解で、産業のためにウェルビーイングを正しく活用していきたい。

3.3 私の会社の実例紹介「🍀MAKE HAPPY PROJECT🍀」

第三に、自分の会社でのウェルビーイングの具体的な実施例を紹介して、この書評の最後に添えたい。私の会社では、風土活性化のプロジェクトとして、『MAKE HAPPY PROJECT』という会社公認のプロジェクトを2018年から活動している。社員をハッピーに、そして、顧客をハッピーにという考えである。2020年から私がリーダーを務めており、「少し先の未来を、あなたと一緒に変えたい」というパーパスを掲げ活動している。著者の前野教授にも、オンラインで弊社向けにセミナーを実施いただき、幸福学を熱く語っていただいた。2021年度は、合計365時間、888回の企画を行い、延べ16500人の参加をしてもらった。行動変容に繋がったメンバーや会社に来るのが楽しみになったというメンバーの数多く、経営陣の信頼と応援を得た、ボトムアップの活動として定着しつつあり、会社を変えていくというムーブメントの一角を担っている。MAKE HAPPYという幸福を追い求めるという、ウェルビーイングの一端を担うプロジェクトであり、その活動はこの本書の実践の一例になっているといえよう。グループ会社としてのパーパスも「幸せの、チカラに。」という新たな存在意義を掲げ、会社全体も幸せを追求する会社として活動していくことを表明している。

4.まとめ

以上の三点が根拠となって、幸せ・健康・福祉の追求は、社会や企業の最重要テーマとなり、ウェルビーイングがビジネス、組織や社会、そして人生を根底から変えるということが、本書における結論である。そして同時に、本書にウェルビーイングな世界を創造する全てを詰め込み、すべての人がすべての人のためのウェルビーイングの一歩を踏み出せるように、みんなの小さな一歩が人類の大きな一歩につながるようにという筆者の祈りがこもった著書であり、「ウェルビーイングの実践の一歩として全人類が本書を手に取り読んで欲しい。」と、筆者は心から切に願う。自分自身の行動として、自分の会社で、本書の読書会を開き、皆さんに理解してもらう企画を行うことをここに約束して、書評として締め括ることととする。

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