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風に吹かれる米国経済

10月末の市場は日本の衆院選と経済指標に振られ荒れる展開となった。

ただ、「自公過半数割れで株安円安に見舞われる」との大方の予想を裏切り、市場は円安株高で反応した。野党躍進により、自公が来年6月の参院選に向けて財政拡大・利上げ封印に転じるとの見方が背景である。ただ、10月31日の日銀会合では植田総裁が正常化路線を排除しないとの考えが明らかとなり、週末にかけて円高株安に傾いた。

米国では大統領選挙を控えるなか、重要指標が目白押しとなった。火曜日のJOLTS求人は下振れたものの消費者信頼感は上振れ、水曜日のADP雇用統計と木曜日のイニシャルクレームは上振れと下振れ(共に景気↑)、金曜日の雇用統計ISMはともに下振れ、といった感じで全体的には下振れた指標が多かった。

ただ、雇用関係の指標はハリケーンで悪化しているとの見方から、特殊要因として処理された模様である。指標発表前の10月27日には雇用統計下振れを警戒するBBG記事も出ていた。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-10-27/SM07JGT1UM0W00

雇用統計を少し吟味すると、今回は雇用者数が前月比+1.2万人と大きく減速したものの、失業率は横ばいで推移した。失業率そのものは7月をピークに緩やかに低下しており、一時期騒がれた「サーム・ルール」は最早誰も口にしなくなった。

雇用が減少しているのに失業率が上がらない理由だが、雇用環境全体として求人が多いことが関係している。FRBが重視する求人件数÷失業者数の割合は現在1.1で求人の方が多い(図表)。仕事を選ばなければ就労の機会はあることはあり、失業しても別の仕事を見つけやすい環境にある。

労働参加率が低い点も見逃せない。10月の労働参加率は62.6%と前月から低下した。均して見れば23年以降横ばいであり、コロナ前よりまだ低い(図表)。コロナバブルやコロナの後遺症で高齢者が労働市場から退出し、現役世代に新たな就労機会を提供している形だ。そのことは人出不足を通じ賃上げ圧力にも一部でつながっている。平均賃金は足元2ヵ月連続で加速している(図表)。

「平均賃金」の計算上、フルタイムとパートタイムの構成比が若干変化している点も賃金上昇加速に関係していよう。9月、10月のハリケーンではパートタイム労働者が減少しており、フルタイム労働者は変化していない(図表)。雇用が弱いのに賃金が上がる手品のタネはこんなところにも隠されている。

ただ、賃金インフレに終息の見込みがないわけではなく、賃金の先行指標とされる自発的離職率はこのところ落ち込みが激しくなっている(図表)。同指標は賃金動向に1年程度先行して動くとみられており、賃金の趨勢はやはり減速方向だと解釈される。

以上、賃金については「短期堅調・長期軟調」といった見通しが立つ。また、雇用環境のほうも一方的に悪化する様子ではない。失業者数に連動するイニシャルクレームはハリケーンの悪影響を完全にこなしてしまった(図表)。景気減速で失業者がどんどん増えている、といった状況でもない。

そのことは企業サイドの求人からも見て取れる。火曜日のJOLTS求人は市場予想を大きく下振れたものの、indeedによるカンニングでは来月は上振れの可能性が高まっている(図表)。雇用関連指標はこのところ変動が激しいものの、先行指標や高頻度データからは雇用環境の崩壊はまだ見えない。FRBが焦って利下げするシナリオも依然見出し難い。

雇用関連にはノイズが多い中、次は実体景気に注目するフェーズとなる。注目は2週間後の小売売上高に移る。今のところ3連勝中のシカゴFEDカンニングは10月も前月比+0.3%と堅調な伸びを予言している(図表)。個人消費はハリケーンによる凸凹を乗りこなし、拡大ルートが続いているようだ。来週は米大統領選によるボラテイリティ拡大が予想されるものの、再来週になると実態景気の底堅さに再度注目が集まるだろう。

余談だが、ISM製造業が軟調な背景には、そもそも米国で財が売れなくなっていることが背景にある。今週発表されたGDPベースの個人消費(月次)では財消費軟調・サービス消費堅調の傾向が確認された(図表)。モノが売れないのでモノを作らないのは道理である。この辺りはFRBの利下げが進めば自動車や住宅などの消費が回復し、モノの消費も戻ってくるのを待つしかない。利上げ前後でモノ消費の企業とコト消費の企業で物色が変わってくるかもしれない。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨する意図はありません。

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