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株高と金利上昇が並存する理由について

2024年も1ヵ月が過ぎ、市場はフィーバーに沸いている。

米景気は異様な強さが目立っている。昨年末はパウエル議長のハト旋回に沸いたが、強すぎる指標は市場の利下げスケジュールを揺さぶっている。

とはいえ株価は底堅いどころか上がっており、投資家を悩ませている。最も簡単な理屈は「景気が良いから株も上がる」というものである。こうした見方は景気敏感株やバリュー株を支える。他方で、「今は良くてもいつか利下げする」という遠望も併存しており、これまたグロース株の急落を阻止している。「良いとこ取り相場」と言えば簡単だが、結局そんな(長期的には)非合理な状態が2022年秋から一年以上続いており、「米景気もそろそろ…」というポジションを取ることも徐々に難しくなり、株もまた上がりやすくなる。

米景気を指標別に確認すると、1月のISM製造業・非製造業は比較的大きめの改善となった。特に製造業は長い「50割れ」から顔をのぞかせる水準に浮かんできた(図表)。

製造業改善には2つの力が働いている。一つは世界的な半導体サイクルの改善である。当NOTEの「台湾カンペ」は振れを伴いながらもISM製造業の改善を示している(図表)。AI特需のほか、中国ではスマホ販売が上向いていることもあり、東アジアを巻き込む形で半導体サイクルは改善している。

もう一つは融資基準の緩和である。SLOOS(米銀審査担当者アンケート)は24年第1四半期に2四半期続けて急激に緩和した。過去30年の履歴を見て、融資基準の緩和は設備投資の増加に結び付いてきた。企業の資金調達環境の改善が雇用や設備投資の改善に結び付く機運が高まっている。

こうした生まれた「ひょっとして景気はいいのか?」という不安は先週末の雇用統計で結実した。NFP雇用者数は予想比2倍増(+35.5万 vs +15.5万)、賃金上昇率も予想比2倍加速(+0.6% vs +0.3%)となった。全てが予想に反するインフレーショナリーな結果となったが、市場は様子見ムードを決め込んでいる。大体は①単月の結果(まぐれ)である、②12月の暖冬と1月の寒波で季調が壊れている、という感じでスルーされているようである。

無論デフレーショナリーを見込む根拠がないわけでもなく、例えばフルタイム・パートタイム比率はパートタイム増、フルタイム減の傾向が続いている(図表)。こうした構造変化は賃金の伸びを鈍らせる効果を持つ。

構造変化の点ではIT職の求人減も重要だ。職種別のindeed求人件数はIT系が低迷しており、こちらも賃金上昇圧力を鈍らせる。

求人件数全体も、「indeedカンペ」は1月に入り減少ペースがややキツくなっている(図表)。総じてみれば企業の労働需要は減っており、賃金減速を期待することには道理がある。

他方、やや気になるのが労働参加率の低下である。23年12月から24年1月にかけて労働参加率は低下し、賃金上昇率は加速した(図表)。12月、1月は暖冬と寒波の影響があったためまだ判断できないものの、株高を背景に再度働かない層(FIRE層)が増え始めた可能性もあり、気が抜けないところである。

以上、雇用統計は評価が難しい面もあるが、とりあえず景気は堅調で雇用も簡単には失速しそうにない。

雇用環境、賃金環境が良いことを背景に個人消費も好調である。「クレカカンペ」は昨年12月にいったん減速したのち、1月は再度持ち上がっており、少なくとも信用拡大を背景とした消費は腰折れてはいなさそうである(図表)。

他方、消費が良いのにもかかわらず米小売店の決算は苦戦が続いている。それもそのはずで、米家計はモノを買わずにサービスばかり買うようになっている(図表)。こうした「モノ不況」とも言うべき状態が冒頭に述べたISM製造業の相対的な弱さや、さらには中国やアセアンなどモノ作りで稼ぐ国の不調につながっているだろう。

現在の「モノ不況」は、2020-21年の空前のバラマキとその後のリオープン景気で需要先食いが起きたことが要因である。今後は需要先食いが低減し、そこに利下げが重なれば、再度モノ消費も回復し、グローバル経済に恩恵が波及するであろう。

話を戻すと、現在の相場は足元の強い景気と「いずれインフレは下がるという期待」の両者で成り立っている。後者の期待をつなぎ留める最大のアンカーは家賃である。家賃は今後、年央までは減速が続くことが既定路線である(図表)。雇用が強かろうが、ISMが強かろうが、小売りが強かろうが、家賃が下がる夏までは株は崩れそうにないが、そこから先は家賃の先触れたる住宅価格が安定しないといけない。コロナ前の住宅価格は前年比+5%で伸びていたことを踏まえると、足元5%まで伸びが回復した住宅価格について、伸びが安定化するか再加速するか、実は今が分水嶺なのかもしれない。

※本投稿は情報提供を目的としており金融取引を推奨する意図はありません。

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