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意外と難しい新年度の投資戦略

3月の米CPIは前年比+5%と予想比下振れとなった。ここ最近の景気減速を示す様々な指標(特に金融不安による信用収縮的な動き)が改めて正当化された形である。5%という数字自体はまだ高いものの、「いずれ景気は悪くなりインフレは終わる」という見方が支配的な以上、「まだ高い」陣営の存在意義は完全に失われた。以下、項目別に確認する。

財需給については、これまで世界を悩ませていた供給制約はついに完全終了した。世界の生産途絶・物流遅延を勘案して作られる供給制約指数は、3月時点でコロナ前の水準に復帰した(図表)。特に、世界の工場たる中国が昨年末に経済再開したことで、再び中国製品が世界に輸出されるようになった点は大きい。どうあがいても耐久財の価格は下落を免れず、耐久財価格は中国が稼働するかどうかだけで決まる単純なゲームだった。

非耐久財のうち最も重要な原油は、OPECの追加減産が不安要素なものの、現時点では「減速必至の米景気+期待外れの中国景気」という減速コンビの力で上値の重い展開になっている。OPECの動きには注意を要するが、追加的なニュースが無ければ需要減退圧力の方が優勢だろう。

サービス価格は賃金と家賃の合わせ技で上がっている。賃金については先週末の雇用統計で予想通りの減速となったほか、直近では中小企業の採用意欲低下も目立っており、引き続き減速がメインシナリオである(図表)。雇用環境は確実に緩んでいる。

ただ、やや難解なのが求人件数の先触れであるindeed求人が3月を通じて底打ちしている点である(図表)。増加トレンドに戻るほどではないが、景気悪化・雇用減のペースは市場が思い描くより緩慢な可能性がある。

さらに、奇妙なことにアナリストらによる予想EPSは今後2年間、極めて堅調に増加する見通しである(図表)。リストラによる業績改善が織り込まれていることもあるだろうが、それにしても違和感を覚えるほどの強気である。

他方で利上げの本懐たる銀行の貸出抑制については、銀行の貸出態度が以前の金融危機、経済危機時に迫るほど悪化している(図表)。過去のラグを考慮しても、夏にかけて企業は資金繰り難から設備投資は減少し、失業増、倒産増などの情報が増えてくるかもしれない。ISM悪化もそうした景気後退シナリオを補強する。

このように強気・弱気の両方をサポートする材料が入り乱れている背景には、家計と企業の「資産ギャップ」が利上げの効果を弱めていることがあるだろう(図表)。即ち、利上げで企業の資金調達が困難になっても、家計の消費行動が弱まらず企業も日銭が入ってくるので倒産やレイオフがなかなか増えない展開である。同時に、アナリストの業績予想も強気が維持される。全米クレジットカード消費額も落ちそうで落ちてこない(図表)。

話をCPIに戻すと、クリーブランド連銀のCPIナウキャストでは次回は小幅加速(!)の予想が出ているが、さして問題とはならないであろう(図表)。景気減速基調が続く以上、もはやインフレ加速は杞憂となる。金利は低下、バリュエーションは改善が既定路線である。懸念事項はリセッションの程度のみだが、それさえも前述した家計資産の多さから浅く短く済む可能性が相応に高い。年初に誰もが考えていた「相場は年前半にリセッションで下落、年後半に利下げで反転」というシナリオは相応に変更を迫られており、今のところ「買い場が訪れないまま高値圏でだらだらと推移」という可能性が濃厚になってきたように思われる。現在の高値均衡を崩す材料は何かを引き続き突き詰めていきたい。

※本投稿は情報提供を目的としており特定の投資を推奨するものではありません。

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