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夏は紫陽花の季節

5月の初めはあれほど良い天気に恵まれたのに、その後は雨、雨、雨。

ドイツ南部では大雨で被害が出たほどだ。

「どこが地球温暖化だ!なぜ5月というのにこんなに寒いのだ?なぜあの美しいはずの5月に毎日雨が降るのだ?」

そう思っていると、あっという間にカレンダーは6月になっていた。

そうか、6月か、もう「夏」と言っていいのかな?この気候だと冬みたいだけど。

と思いつつ、早朝から出張レッスンに出かけた。

生徒さん宅の近くには綺麗な公園がある。せっかくだからレッスンの後にこの公園を散歩しよう。

その公園は3月から4月になると桜の花が咲いていたり、山吹の黄色が眩しかったりする。5月はツツジが綺麗だった。

さて、6月はどんな花が咲いているのだろう?それにしても寒いなあ。

スプリングコートを羽織って歩き始めた私の目の前に現れたのは

紫陽花!あじさい!

そうか、もう夏なんだ!

紫陽花

あじさいというと梅雨だが、梅雨のないドイツでは「あじさい=梅雨の花」とはならない。夏の花だ。

もうかれこれ20年くらい前だが、とある豪邸に住む生徒さん宅に出張レッスンに出かけていた。

いや、豪邸かそうでないかはこの際、どうでもいい。

ある日、玄関ドアの両脇に大きな鉢に入った紫陽花が飾られていた。

「まあ、綺麗な花ですね!」と生徒のお母さんに言った。

それが紫陽花ということはこの植物に疎い私でも知っていた。ただ、紫陽花が日本原産の花だとは知らなかった。なのだが、豪邸の玄関ドアの脇で咲いていた紫陽花の花を見て、なんとなく「懐かしいなあ」と思っていた。

それまでにもドイツの庭で紫陽花を見たことがあったから、生徒さん宅で紫陽花を見てびっくりしたわけでもなかった。

でもなんだか胸に込み上げてくるものがあった。

だが、だからその家のお母さんに「綺麗な花ですね!」と言ったわけではない。小学生の息子さんのレッスンが終わって帰る時に、玄関まで送ってくれたお母さんに世間話のように話しただけだ。花が綺麗だと。

とはいえ、それまでも玄関ドアの脇には綺麗な花がかざってあったのに、紫陽花以外の時には私は話題にしなかった。

紫陽花が「ねえねえ、知っていた?私も元は日本から来たのよ!」と私に訴えていたのだろうか?

一言「綺麗な花ですね」と言っただけなのだが、1か月後だったか、ピアノの発表会の後、そのお母さんから紫陽花の鉢をもらった。

綺麗にラッピングされた、ピンク色の花を咲かせた紫陽花の鉢植えだった。籐で編まれた植木鉢カバーもついていた。

「あの生徒のお母さん、覚えていてくれたんだ!私が綺麗な花ですねって言ったことを!」と嬉しくなった。

残念ながらその紫陽花は引越しの際に枯れてしまった。

引っ越した先の家には庭があり、以前の家主が庭にいくつかの紫陽花を植えていた。

その紫陽花のうちの一つは笹の横に植えてある。紫陽花と笹が並んでいるところを見ると、ちょっと「エキゾチック」「アジアンビューティー」な感じもしないでもない。おそらくそれが前のドイツ人家主の好みだったのだろう。

紫陽花かあ。長引く雨のおかげで庭にカタツムリもたくさんいるし、なんだか子供の頃を思い出すなあ。

「で〜んでんむ〜しむし か〜たつむり〜♪」

再度言う。ドイツには梅雨はない。だから紫陽花は夏の花だ。紫陽花には夏の太陽が似合う(のだと思いたい)。

そんな日の午後、2週間ぶりに小学生の生徒の出張レッスンに出かけた。この生徒の家の庭にはずら〜と紫陽花が大量に植えてある。

ピアノの横の窓から庭を眺めたら、咲いていた。淡い青い紫陽花の花がたくさん咲いていた。

夏だなあ。

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