ジャック・ブレルの「行かないで」
私は、日本語で歌われるシャンソンを否定しない立場だが、それでもいくつかの歌は日本語歌詞にしてしまうとその良さが半減してしまうのは事実だ。
その顕著な例がジャック・ブレル(Jacques Brel)の Ne me quitte pas(行かないで)ではないかと思っている。
5音の短文が延々続く
フランス語を多少学ばれた方は直ぐにおわかりだろうが、"Ne me quitte pas" はカタカナで書くと、ヌ・ム・キ・トゥ・パ と5音である。その5音に「行かないで」と日本語を当てはめたわけだ。其処までは良いが、その後は5音ずつでは日本語にならない。
Ne me quitte pas
Il faut oublier
Tout peut s'oublier
Qui s'enfuit déjà
Oublier le temps
Des malentendus
Et le temps perdu
À savoir comment
Oublier ces heures
Qui tuaient parfois
À coups de pourquoi
Le cœur du bonheur
歌い出しのこの部分を翻訳してみると…
行かないでくれ
忘れなければいけない
既に過ぎ去ったことはすべて忘れることができる
行き違いの時を忘れなければならない
僕たちは時々疑問を抱くことによって幸せな気持ちを壊してしまった
そうした時を忘れるにはどうしたらよいかを考えて、さらに時を無駄にした
そうした時も忘れなければならない
こんな複雑な歌詞は、日本語の歌では考えられない。ましてや、5音が12小節連なるこの曲の歌い出し部分で表現することは不可能だ。
豊かなイマジネーション
このシャンソンは、言葉遣いが巧みなだけではない。豊富な想像力で美しい世界を私たちの目の前に展開してくれる。
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