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もう一つのガン

2023年の夏、胃がんがわかったけど、それより遡ること一年ほど前の2022年の春、私は子宮頸がんのオペで入院していた。

特に自覚症状はなく、市から送られてきたガン検診券を使って町医者を予約して引っかかり、検査を重ねて、着々と引っかかり、大きな病院に転院し、オペすることになった。夫はまだコロナで入国できず、外国でのんびりしていた。私の現状を話して、急遽、日本に来ることになった。

幸いに、子宮頸がんはごく初期で、先生曰く「がん保険入ってたら(お金貰えるし、もう払わなくていいし、命取られるほどじゃないし)ラッキー」だそうだけど、帰国したばかりの私は、もちろん、がん保険なんて入っていなかった。

初期なので、円錐切除という、膣からのオペでおしまい。ただガンができたところがやや面倒臭いところで、「円錐切除でギリギリ取れたので、定期検診は欠かさないで」ということだった。

入院も一泊で、手術時間は10分ほど。手術台もベットじゃなく、婦人科の検診で使う太ももを固定して開く椅子状の台だった。当初全身麻酔と聞いていたが、蓋を開けたら部分麻酔だった。看護師さん曰く「人によっては、そのまま眠る方もいます」とのことだったが、私は眠らなかった。と思ったのだけど、実は夢の中のようにずっと話していたそうだ…。先生が、看護師さん達に色々ダメ出ししていたので、『そうだそうだ!』『先生がんばれ〜』と応援していたらしく…術後の回診で担当医に「応援ありがとうね!!」と言われて赤面した。…全く記憶にない。

担当医は見事に禿げたたぬき親父で、初診時、電話で予約した際に「女医希望でしたら、かなり先になります」と言われ、誰でも良いですと伝えたらこの親父先生になった。腕は確かで、検診も痛くない。

2023年、胃がんがわかり、子宮頸がんの定期検診を手術に合わせて一ヶ月早めててもらった。先生に「どうして?」と聞かれ、実は胃がんの手術をしなくちゃならなくて、と言ったら先生すごく驚き、「ええ!そんなガン家系なの?」

どんなにある分野のプロフェッショナルでも、自分の分野外のガンには疎いようで、質問のいちいちが一般人と同じだった。でもすごく心配してくれて、人間味あふれる励ましに救われた。

その子宮頸がんの定期検診の結果が数週間後送られてきて、先生の汚い字で何か書いてある。子宮までまた悪いのかとドキドキしながら見たら、「胃がん手術頑張って!応援しています」みたいなことが、みみずがのったくったように書かれていて、思わず笑みがこぼれた。

無事胃がん手術が終わり、「心配だから、這ってでもいいからこっちにも検診に来て」と言われた日は、手術後一ヶ月くらい過ぎた頃だっただろうか。どうにか這わずに行って、先生にまじまじと胃がんの傷を見られ、「へー、最近の医療はすごいねぇ。このおへその傷が一番大きいから、そこから胃を出したんだろうね」などと、アマチュアとプロが混じったような感想をいただき、念入りに子宮の検診もしてもらった。

日本に帰ってなかったら、なんの自覚症状もないのにがん検診を受けようなんて思わず、子宮頸がんか胃がんで死んだんだろうな、と思う。


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