「会いたい」⑩

混乱の嵐の中でも、どこか覚めて物事を判断する、それが人生の正解だというスタンスは変えようがない有紀恵。

今は、自分が松木の前から消えてしまうしかないと考えた。

全ての段取りを整えるには、時間が必要だが
今はとりあえず、連絡のつかない海外か、山奥に身を隠しながらいや、海外は周囲への連絡が取りづらいから、やはり、電話、メールは繋がる国内で、出来る限り大阪からはなるべく遠いところ、そうだ慎一との一番の想い出の地
鹿児島と決めた。

松木に送ってもらい、レッスン後の夜9時
を約束して、慌てて旅支度に取りかかった。

レッスン生や身内に取り急ぎの連絡をして
13時の飛行機に乗るべく、タクシーを呼んで空港に走った。

車を降りて、搭乗手続きまでがもどかし過ぎる。

一睡もせずに、バタバタと動いたからか、かなりふらふらしている自分に不安を覚えている有紀恵だった。

気持ちを整えようと、洗面所を探し始めたその時

「 どちらまでですか。荷物を持ちましょう。」

後ろからのその声は……

すでにストーカー以上のその動きに有紀恵は恐怖すら覚えた。

「 どうして〜」

悲鳴か嗚咽か

有紀恵は松木からは逃れられないことを悟るしかなかった。

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