くろすみさん

あ、またくろすみさんだ。

そう思った今日この頃。

天気がよく、入道雲が空に広がっている。

くろすみさんがいた十字路の角を見ると、くろすみさんはいなかった。

不思議な気持ちになりながら、塾へと歩みを進める。


そもそも、くろすみさんとはなんなのか。

くろすみさんは人間ではない。

かといって幽霊でもない。

動物でもないし、何かの物体でもない。

くろすみさんのことは誰も知らない。

唯一わかることは、くろすみさんはいつもみんなのことを見守っている。

どこかの塾のキャラクターとは違い、何もしない、何も声をかけないでそっと見守ってくれる。

くろすみさんがよく出るところは扉の隙間や、先程も言った十字路の角に現れる。

私はくろすみさんのことはよくわからないのだ。


あたりが暗くなったときに、塾での自習を終わらせた。

塾を出て、不気味な蛍光灯の街灯しかない道を歩いていた。

ふと、うしろから足音が聞こえる。

おかしいと思い、走る。

すると後ろの足跡も走る音になった。

気づけばいつも家に帰るときや塾に行くときに通る十字路があった。

やっと家に帰れると思ったが、そこで転けてしまう。

「ひひ、やっと捕まえた。」

足を掴まれ、ズリズリと何処かへ連れて行かれそうになる。

このままではやばいと思ったとき、くろすみさんが見えた。

私の口から出たのは、思いがけない言葉だった。


「たすけて、おじいちゃん。」


すると、足を握られてた感覚が消えた。

後ろを見ると不審者はいなくなっていた。

口を手で抑えた。

涙がポロポロと、コンクリートに滲んだ。


あれ以来、くろすみさんは見えなくなった。

塾の帰りは母親に迎えに来てもらっている。

志望校の過去問を解きながら、おじいちゃんの写真を見た。

おじいちゃんの匂いが仄かに、微かにした。


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