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女は愛嬌、だがもうくたびれちゃったんですよ

人前に出るときは笑顔を作る。
特に、芸人など舞台にあがる人は、観客に向けて笑顔を作ることを意識するだろう。

また観客も面白がらせてくれるであろう相手に笑いかけられることを期待している。

「こんちは。…いやにこうつまらなそうに出るでしょあたし。もうちょっと笑顔ですっと出ればいいんですけどねぇ、もうくたびれちゃったんですよ。フッ」

漫談の挨拶を聞いて、私もフッと笑ってしまった。

初代柳家三亀松師匠、ぞくっとするほど話す間と声が魅力的だったからである。

私は落語に詳しいわけではない。たまたま都々逸っていいなと思って、聞いているうちに、初代柳家三亀松師匠に辿り着いただけである。

しかし、そのようなにわかでも、音源ではなく、実際に聞いてみたかったと思わせるあでやかな声だった。

私は皆さんご存じといわれた時代を知らないが、一世を風靡した人であるというのも分かる気がする。

在りし日のお姿を知らないのが本当に惜しい。今度師匠の一代記といわれる『浮かれ三亀松』を読んでみよう。


私は師匠と違って、人前で披露できる芸はないが、女は愛嬌と笑顔を作ることに「もう疲れちゃったんですよ。」と言いたくなることがある。

大勢を前に笑いかけるわけでもないのにと思われるかもしれないが、
だからこそ頑張って口角を上げたって、「イヨッ、いい笑顔だね!」と心付けをもらえるわけでもない。

美人なら微笑むだけでもらえるのかもしれないが。

私に披露できるのは疲労だけだよ。

駄洒落でも言えば可笑しいかと思ったが、鼻先でフンと笑う程度だった。

「この程度に笑ってりゃいいんだねぇ。でもこれは営業だからね。本当に笑っているわけじゃないんだ。だからすぐ止まっちゃうよ。」

これは、フフフッと笑えた。そうすると少し元気が出た。

そろそろ娘の夕ご飯を作ろう。
そして「ご飯だよ。」と笑いかけよう。

夫の帰りは何時か分からないけれど。

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