超短編　最終電車

くだり最終電車の最後尾から降りて、改札口を最後に抜けて、閉店間際の本屋で何も買わずに店を出ると、後姿しか見ることができなくなる。

追い抜こうとしても、左に曲がり右に曲がりして、後姿しか見ることができない。風は向かい風で、道を曲がっても、やっぱり向かい風だ。

あなたは一人きりの家に帰ると、人々の顔がはたして前についていたのかどうか不安になるが、明日の朝になるまで確かめるすべはない。

翌朝、早めに家を出ると人々はもう先を歩いていて後ろ姿しか見えない。足音が聞こえてふりかえると、左に曲がり右に曲がりする。向かい風が吹く。あなたは、おそろしくて、もう誰の顔も見られない。