見出し画像

めちゃくちゃ公園

 学校で算数を習った小太郎は、数字が気に入ったらしい。
 手編みのサマーセーターを着ていると、
「そのセーターは毛糸何メートルでできてるわけ?」
「町子さんの大腸の長さは何センチメートル?」
 などと、いちいち絡んでくる。最近は小太郎を見かけると、電信柱の陰に隠れるようになった。

「私なんか、床屋に逃げ込んだんだから。それも三回。おかげで髪の毛がどんどん短くなる」
 後ろ毛をさすりながら、町子さんは言った。
 
 質問をする相手がいなくなった小太郎は、落葉を数えているという話だ。なんだかかわいそうになったので散歩に誘い出し、二人で秋の公園を歩いた。
 葉っぱでも数えるかと思ったら、小太郎はあれは何の木、あれは何の花、あれは何の鳥、とあれこれ聞くので、よく見もせずに適当に答えて関係のないことまでべらべらと話していた。

 あれは白樺、あれは沈丁花、あれは水仙、あれはうぐいす、あれはあおさぎ、あれはこいぬ座、ピーナツを世界に知らしめたのはコロンブス、蛸は蟹が大好きで、一匹ではとても満足できない…。

 すると翌日、市の土木課から電話があった。
「あなたですか、適当なことを言ったのは」
「どうかしましたか」
「おかげで、公園がめちゃくちゃですよ」

 町子さんも誘って三人で公園に行ってみると、たしかに季節がめちゃくちゃになっている。
「小太郎が忘れたら元に戻るでしょ」
 町子さんはそううけあってくれたが、不安になった私は昨日せっせと調べてきた秋に飛ぶ虫や、色づく葉を小太郎に向かって唱えてみるものの、本当かどうだかなぜか自信が持てないし、小太郎はわざと四季の歌なんかうたっている。

「小太郎、真剣に聞きなさい」
「ちなみにぼくは、しんけんという言葉がきらいだ」
「ちなみになんて、よく知ってたわね」
 
 町子さんが、小太郎にアイスを買ってやった。すると急に寒くなって一向に歯が立たないというので、めちゃくちゃ公園から帰って私の家で焼き芋を食べた。

 二人が帰ったあとで土木課から電話があり、公園は無事元通りになったというので胸をなでおろした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?