ふとったはだかのななにんのおんな
本を読もうとして書庫に入ると、本棚の中には本のかわりに大きな裸の女たちがいた。
ひとり、ふたり…七人。
あなたたち私の本をどうしたの。
聞けば、私たちが本そのもの、あなたがいつまでも読まないので私たちがかわりに飲み込んだ言葉、と答える。
つまり、私の本はすべてこの女たちに食べられてしまったのだ。この先、本という底知れぬ世界を飲み込んだ七人の女をどうするべきか。
焚書という言葉がある。
かといって、女たちを焼くわけにいはいかない。焼けば、言葉も死ぬ。女たちは死なずに、言葉だけが死んで、女たちは生き残るかもしれない。
私は、閉じ込めておくばかりで手付かずにしていた書物のことを考え、涙しながら朝のパンを食べた。紅茶も飲んだ。ハムと卵も食べた。女たちは言葉で腹いっぱいなのだ。
それから美術館に行った。目の中に絵を満々と湛えて女たちを見てやろう。さすれば女たちは怯えて言葉を吐きだすかも知れない。
けれど、私の目は絵を見ずに、その横に掲げられた絵についての言葉や、絵の題にばかりとらわれていた。題のない絵にあたると、私の頭の中は真っ白になってますます絵は目に映らない。
美術館を出ても、頭は絵の言葉で満杯だった。このままでは、早晩自分は言葉で埋め尽くされてしまう。私の体は言葉を永遠に湛えておける、脳の泉を失ったのか。たった、七人の書物の女たちのせいで。
私は家に戻ると書庫に入り、するすると着物を脱いで本棚におさまった。
ふとった裸の女たち。ひとり、ふたり、さんにん、よにん、ごにん、ろくにん、ななにん。
そして、はちにん。
ふとったはだかのおんながはちにん。
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