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ブルーベリーチーズケーキ

「きのう、変な夢を見たんだ。大皿に料理をたくさん盛りつけてそれを制限時間内に食べろっていうの」
「いいじゃん」
「全然よくないよ」
「なんで」
「だって、嫌いなものばっかりなんだよ」
「バイキングの料理が全部嫌いって、かなりの偏食だね」
「いや、嫌いっていうのは違うか…。どれも食べられないわけじゃないけど、スーパーとかコンビニに行っても、まず選ばない味とか食材ってあるでしょ。肉まんだったら、ふつうの肉まんとあんまんとピザまんは好きだけど、変わり種は食べたくないとか、チーズもブルーベリーも大好きだけど、その二つを組み合わせたお菓子はあまり好きじゃないとか」
「酢豚にパイナップルとか?」
「ああ、そんな感じ…」
「つまり、嫌いじゃないけどできればチョイスしないってもんばっかなのね」
「そうそう。どれひとつとして、自分の好きな味がないの。せめてものすごくお腹が空いていたらいいんだけど、それもなくって。時計を見たら、まだ午前十一時だし」
「十一時って言ったら、三限じゃん。あたし、いつも腹減ってるよ」
「日曜の十一時だったら違うでしょ」
「ああ、たしかに。寝起きって感じだ。それにしても、ありそうでなさそなシチュエーションだね」
「そこが夢なんだと思うよ。だけどあたしもさ、いろんなことにこだわりあり過ぎるのもあれかなって、反省したよ」
「夢の中で反省したの」
「夢の中でも、目が覚めてからも」
「で、それからどうなった?」
「結局、ひとつも食べられなかったんだ。その店はすごく規則が厳しくてね。食べ残しは絶対に許しませんって貼紙がしてあるし、皿の盛りつけにも決まりがあって、ちょっとでも隙間があったらだめとか。おまけにトングはかたくてつかみにくいし、ようやくいい感じに盛れたと思って席に行こうとすると、怖い顔したウエイトレスの人が『ここに隙間があります、もう一品盛り付けてください』とか言うから、また戻ると今度は人が多くてなかなか取れない」
「なんだか、ブルーベリーチーズケーキが食べたくなってきたな。あたし好きなんだ」
「実を言うと、あたしも目が覚めてからコンビニにブルーベリーとチーズのお菓子がないか探しに行ったんだ。なかったけど。かわりにへんな肉まんを買って食べた」
「うまかった?」
「まあまあ。思ってたよりは」
「よかったじゃん。あーあ、おなか空いてきたよ。ところで、その夢って過去からきたのかもしれないよ」
「何、それ」
「夢ってすごく近い記憶は出てこないんだって。たとえば今日、殺されたとしても、すぐに殺された夢は見ない」
「殺されたら、夢も見れないよ。山登りした日に足ががくっとなるのは違うの?」
「それは身体の反応でしょ」
「すごく怖いことがあった日はうなされてる気がするんだけど」
「たぶん厭な夢は見るけど、その日にあった怖いことはまだ夢に出てこないんだよ。まだ身に染みてないから頭の中で整頓できてない。だから、ちょっと遅れでくる…」
「えー、やだなーそれ。じゃあ、あのビュッフェってあたしの過去の罪業ってことでしょ。でも、ブルーベリーチーズケーキの罪業って言われてもねえ」
「どうしてブルーベリーチーズケーキが嫌いになったの?」
「え、そんなのわかんないよ」
「食べたことはあるでしょ」
「どうだろう、覚えてない」
「あるよ」
「なんだか、知ってるみたいだね。あたしがいつ、ブルーベリーチーズケーキを食べたか…」
「あんたがいつ、ブルーベリーチーズケーキを殺したか」
「食べたら殺したことになるの?」
「そうだよ」
「それなら、あんただって何回も殺してるでしょ。好きだって言ったんだから」
「あたしはブルーベリーチーズケーキが好き。でもあんたは嫌い」
「だから殺したことになるの?」
「そうだよ」
 そこで、目が覚めた。
 私はブルーベリーチーズケーキが嫌いだ。この夢の女の子と違って、本当に大嫌いだ。夢のなかの二人はこのあとどうなっただろう。


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