ゴマアザラシから始まる異世界的ゲーム探訪、プロローグ
ある早朝、俺はアザラシを見つけた。
比喩ではない、本当に落ちていたのだ。
前の晩、ここ足立の西伊興には珍しく雪が降り、嬉しくなった俺は朝から雪を観察しようと散歩にでかけた。
冬の朝というのは不気味な程に静かだ。俺は人のいない舎人公園の大池を眺め、そのほとりを悠々と歩きながら、芝に薄く積もった氷雪に足跡を残して遊んでいた。
雪に満足して帰りかけたとき、俺はふと雪野原に丸い物を見た。
「なんだ、あれ」
それは雪に紛れる程に白く、僅かに黒の斑点を持っていた。遠目からは大きな大福のようにも見るし、ツヤツヤしていて綺麗な石のようでもあった。
しかし一歩近寄るたびに、それは生き物だと分かった。なぜなら僅かに上下していたからだ。
そしてようやく理解した。
それはアザラシだった。
雪に埋もれるアザラシはどこか鼻セ◯ブに似ていて、チョイと突付けばモチモチしていた。
とりあえず写真でも撮ろうかとポケットをまさぐっていたとき、アザラシは僅かに動いてこちらを見ると小さく呟いた。
「お腹すいた」
俺は何が起きたのか理解できずにその場に立ち尽くした。目を見開き、冷たい風を吸い込み、ただアザラシを凝視した。
するとまたアザラシは呟く。
「なにか、食べ物とか、水でも嬉しい」
「もしかして、君が話してるの?」
こっそり尋ねれば、アザラシは頷く。
思い返せば、このときの俺は雪が降った嬉しさと、アザラシを初めて見た驚きと、指先の冷たさを何とかしたい気持ちとで精一杯だった。寝起きでもあったためか判断力を失っていたのだ。
「とりあえず俺の家においでよ。お隣さんからもらった大根ならあるし、なんか作ってあげる」
俺はモチモチした物体を持ち上げると、もと来た道を帰って行った。
「君アレルギーとかある?」
「アレルギー?」
「なんでもない、楽しみにしてて」
アザラシは腕の中でふよふよ揺れながら笑った。
「分かったモチ」
「いや、モチってなんだよ」
「なんでもないモチ」
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