統合失調症の喜び、あせりとゆとり

統合失調症の患者は皆あせりを持っている。ゆとりがないのである。統合失調症者の多くははとくに超限的ともいうべき焦燥の中にいる。

時たまゆとりがでてもそれを使い果たしてしまう。
寛解は次第に奥行きの深いゆとりが出てくる過程でもある。
寛解の初期に「あせりを自覚するほどのゆとり」が生まれる。そして統合失調症の患者は「存在の余裕感」がもっとも高い生の喜びだ。

統合失調気質者や統合失調症を経過した人の味わいうる生の喜びの一つは「余裕感の中で憩う」ことであって、その味わいの深さは、あるいは他の気質の人の知りえない種類のものであるかもしれない。私は患者に治療目標の設定を、「あなたが何かをしてもよいが何をしなければならないとは感じないだけのゆとりをもてるところ、何かになってもいいがならなくてもよいだけのゆとりのあるところまでお互いに努力するということと思うがいかがでしょうか」という意味を話して行う。

統合失調症1 みすず書房 中井久夫

中井久夫先生は、「先生、ゆとりって何でしょう。私はそれを感じたことがないのです」と患者に聞かれた際に、「それが君のなかに生まれたとき、きっと、ああこれだな、と判るでしょう」と答えた。その他に答え方がなかったのである。

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