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夫が買ってくれたミキサー

先日、がんがわかって1年たったので主治医に当初の診たてをきいてみた。
すると「このタイプのがんは抗がん剤が効きづらく1年生存率20%という見方もあった」との話だった。
え?生存率20%って?私のこと?
そんなに厳しい見方をしていたんだ、と衝撃。どうりで復職を勧めなかったわけだ。

がんが判明して抗がん剤治療を始めるにあたり、主治医からは「抗がん剤はやってみないとわからない、副作用も人によって全然出方が違う」と言われひどく動揺した。おまけに看護師からは考え得る全ての副作用について説明をされた。髪が抜けて、手足が痺れて、だるくなって、口内炎ができて、肌も爪もカサカサになります、って。もちろん、医療者としてその説明が必要であることは頭ではわかっているけど、これ全部出たらどうなんの?効き目よりも副作用で死んでしまうでのはないか的な恐れがかき立てられた。

今まで風邪くらいしか医者にかからなかった身としては、主治医をもってさえ予後の見通しがつかない不透明感に打ちのめされそうになっていた。主治医は「今の標準治療は10年前の夢の治療なんですよ。それくらい、がん治療法は日進月歩なんですよ」と話してくれたが、3週間に一度の抗がん剤だけに頼り、それ以外の日をのんびり過ごすなんて気になれなかった。
「自分でもがんに効きそうなことをしなくてはいけない、手遅れにならないうちに!」
との気持ちが押さえきれなくなった。
そして私はお高いミキサーを買った。今まで使っていた3000円程度のミキサーを10個以上買える額。カボチャの種まで粉砕できる強力なやつだ。
野菜の皮や種には抗酸化作用がありスムージーとして飲むのがよい、とがんが消滅した人の本に書いてあった。このミキサーで毎日スムージーを作ることくらいしか自分でできることを見つけられなかった。

夫には「これ買おうと思う」と伝えた。もし夫から、こんな高いやつ要らなくない?、なんて言われたら頭がおかしくなってたと思う。

正直に言うと、今このミキサーの出番は多くはない。スムージーも気が向いた時に作るくらいだ。
夫は私が飽きっぽいことも十分知りながら誕生日プレゼントとしてミキサーを買ってくれた。夫とて、家族がいきなりがん、しかもステージ4と判明して気が狂いそうな時期だったと思うが、私の不安と混乱を静かに受け止めてくれた。そのことにしみじみと感謝している。

受け止める、って難しい。
私は精神保健福祉士として精神障害のある当事者と関わる仕事をしているけど、彼らの言葉を本当に受け止め聴くことはできていたか、と考えると自信がない。
○○すればいいのでは?、とアドバイスをしているようで、実は目の前の困っている人に対して一件落着感を押し付けて右から左にこなしていただだけのような気もする。

自分ががんになって気づけたことの一つだ。

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