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自由詩: 無言の帰宅、そして今

目が覚めると
親戚から携帯にメールが入っていた
急いで朝食を済ませて病院に向かった

遠くの一点を見つめるように
目を開けてじっと横たわっていた
十年以上にわたる闘病生活の終りであった

僧侶の読教が始まる直前だった
老婦人が祭壇に飾られた写真を見て
私の方を振り返ると
「あれは誰の写真ですか」と言った
「えっー?」と私は絶句した
「おばあちやん、あなたの息子さんですよ」
見かねた孫の一人が声をかけた
もう一つの悲しい現実であった

「どうぞお入りください」と係員の声がした
中に入ると、そこには骨と灰だけにになった
変わり果てた姿があった
「あれー、たったこれだけしかないのか」
箸で脚のあたりの骨をつかもうとすると
箸のあいだからまるで粉のように砕け散った
目頭が熱くなった

自宅までいっしょについて行った
そこは闘病のあいだ長いこと留守にしていた

視線を感じ、私は写真を見た
「僕のぶんまで、長生きをしてくれ」
一年以上も前に、病室で小さなかすれる声で私に言った

「やっと自分の家に帰ることができたよ」
線香を立てながら
私は壺の入った箱に向かって語りかけた


墓石の前で手を合わせた
「もう七年が過ぎたよ。僕はまだ元気だよ。
君の分まで生きて、近況を報告するよ」
すぐ横には、後を追うように
亡くなった母親の名前が
墓碑に並んで刻まれていた
「また来るよ」と言って
その場を去った

※お断り もう何年も前のことになります。小さい頃から仲の良かった親戚の一人が亡くなりました。その時に書いた作品に今回加筆しました。


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