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随筆: 野外の映画鑑賞会、はるか昔私の田舎町で

アメリカの野外での映画鑑賞の様子を見ると、私が育った田舎町を思い出します。もう60年も昔のことです。

夏休みのお盆の頃になると、小学校のグランドで映画上映会が開かれました。電源確保のため職員室から、長い延長コードが引ってありました。そしてグランドのジャングル・ジムに幕が張られ、それがスクリーンでした。教室から持ち出したであろう机の上に、映写機が置かれました。そしてその近くにはスピーカーが置いてありました。

小学校の近くに住んでいる人は、大人も子どももおのおの敷物とうちわを持って観にいきました。日が暮れると、懐中電灯を持った大人の人(多分学校の先生)が映写機に近づき、スイッチが入りました。おじさん、おばさん達の響き渡っていた声は、ピタリと止みました。すると、近くの田んぼからカエルの鳴き声が聞こえてきました。映写機が動き始め、幕に光が当たると、④ ③ ② ①と大きな〇数字が出ました。どうした訳か、小学生達が自慢げにヨン、サン、ニー、イチと合唱を始めるのでした。

当時は映画が始まる前には、必ず5分程のニュース映画が上映されました。ニュースと言っても1年近く前の古いニュースでした。肝心の映画ですが、小さな子どもだったので、どんな映画が上映されたのか全く覚えていません。当時はすべて映画は白黒であり、かすかにチャンバラのシーンを見たような記憶があります。

映画が終わると、皆それぞれまるで夢の世界から目覚めたような顔をしていました。先程まで見た映画の話をしながら、自宅に帰って行きました。私は既に眠けを感じて、帰り道大きなあくびを何度もしました。私の顔を見て「家に帰ったら、すぐに風呂に入りなさいよ」と母親から言われました。

母親に手を引かれて観に行ったことが、懐かしく思い出されます。この当時の田舎町では、テレビがまだ一般家庭に十分に普及していない時でもあったためか、人々はこの上映会を楽しみにしていました。

このはるか懐かしい思い出も、人々の記憶からすべて歴史の中に消えていくのでしょう。民衆・大衆の歴史とはそんなものなのでしょう。

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