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綺麗事だけじゃ、接客業はやってられない。

美容系や飲食店など、長年接客業に携わってきた。お客様の喜ぶ顔が大好きだし、ギフト探しのお手伝いなんてもう楽しくて楽しくてたまらなかった。

「お客様の1日をHappyに」この言葉を自分の中でポリシーにして働いていた。
どんなお客様にも楽しく過ごしていただきたいというこのポリシーは、私が経験した残念な思いから来ている。

友人へのプレゼントを買うために立ち寄ったお店でのこと。
久々に予定を合わせることができた私は、朝からウキウキしていた。

店内にお客様はおらず、店員さんが1人だけいた。正面から入店した私だが、彼女は下を向きながら作業をしていて私に気がついていないようだった。

しばらく店内を見ていたが相変わらず下を向いている彼女。
時間もあまりなく、質問をしたかった私は思い切って話しかけてみた。

今初めて私の存在に気づいた訳ではなさそうなリアクションから始まり、最後まで笑顔もなく、逆に怒ってる?と思うような塩対応だった。

やることがたくさんあって、いっぱいいっぱいだったのかもしれない。
もしくはプライベートで嫌なことがあったのかも。

なにか事情があったにせよ、こちらが残念な気持ちになったのは事実だ。

「あぁ、こんなに楽しい気持ちだったのに1日を台無しにされたみたいで嫌だな」。
と、たった数分のできごとだが一気に気分が下がったのを今でも覚えている。

そんなことがあったため、自分が接客にあたるときはそんな思いをしてほしくない。作業中も常に口角をあげて、いつでも話しかけやすいように意識をしていた。

お客様のほとんどは、「普通のお客様」だった。
しかしこれも接客業の宿命なのか。中には無茶な要求をしてきたり、理不尽にご立腹になる人もいた。

そんな「普通」とはいえないお客様だが、私のところにばかり集まってくる気がしていた。他にスタッフが数人いるのにも関わらず、毎回私のところにくる。

こんな言い方をしていいか分からないが、なめられたくなくて、赤いリップに黒くて太いアイラインを引いて強く見せようとしていた時期もある。

先輩や同僚からも、私のところには理不尽なお客様は全然こないけど、あなたのところにはいつもくるねと。やっぱりうまく丸め込めそうな見た目なのか?いつも口角をあげているせいか?

そんな疑問を抱えながらも私は、退職まで全てのお客様に笑顔で丁寧な接客を心がけた。

それから月日は過ぎ、現在国際結婚をしてカナダで暮らしているのだが、今まで接客業の中で感じていた違和感が確信に変わることがあったので聞いてほしい。

トルコ人の友人と仕事について話していたときのことだ。
いつでも笑顔を絶やさず、見た目から優しさが滲み出ている彼は、銀行でお客様対応をしている。

銀行もいってしまえば接客業。中には理不尽な要求をしてくる人もいる。
常にご立腹で大声を出す人。毎回要求を変え、意図的に困らせようとする人。

そしてカナダでは、彼は現地人ではなくいわゆる「外国人」。
もちろん彼は英語を話せるし理解もできるのだが、ネイティブスピーカーではないというだけで、あえて意地悪をしてくるお客様もいるそうだ。

「あまり丁寧に接しすぎるのもかえってよくない」。
「丁寧に対応しすぎると、普通のお客様でさえ少し横暴な態度になることがあるからほどほどにね」。

常に笑顔を心がけ丁寧に接しようとする彼への、上司からのアドバイスだそう。

理不尽な圧力をかけられたときに毅然とした態度で対応できるのは、自信があってこそ。自信がないと相手にも伝わり、そこからまた圧力をかけられるという悪循環に繋がる。

実際彼の職場でも、新人にも関わらず、私は長くここで働いていますよというオーラを放ちまくっているスタッフがいるらしい。決して下手には出ず、必要なことを淡々と進める。

その新人スタッフのところには、理不尽なお客様や、横暴な態度のお客様はこないそうだ。

いや、横暴になる隙さえ与えないのかもしれない。
そういった理不尽なお客様は、スタッフを選んでいると思うと彼は話していた。

これについては私も心当たりがありすぎる。

一番印象的だったのは、期限切れのクーポンを使いたいという女性客。
もちろん丁重にお断りしたが、彼女はなんで?の繰り返し、さまざまな言葉を使って圧をかけてきた。

最後は後ろにお客様が並んだため、捨て台詞を残して帰っていったが、あのときは心臓がバクバクして恐怖を感じた。

こういった苦い経験は、やはり自信のなさそうな私の態度が招いてしまっていたと感じている。

その頃の私は、お客様に対しはっきりと「できません」というのは失礼にあたると思い、丁寧な言い方を心がけていたが、数%の理不尽な人はそこにつけ込んでくる。

彼らに対しては、なにをいわれても強くはっきりと「できません」といいきるべきなのだ。

もちろんすべてのお客様に、楽しい気持ちで帰ってもらいたい。
しかし、笑顔で丁寧に接することを喜んでくれるお客様だけではないのだということを学んだ。

ふと始まった会話から、共感の嵐でやっぱりそうだよね?と話が止まらなかった。

そして私たちは「接客をするときは人によって態度をかえるべき」という結論に至った。

数%の理不尽なお客様を適当にあしらうという訳ではなく、正確な案内をしたにも関わらず、理不尽な要求をしてくる人に対しては下手に出る必要はないということ。

どんなに圧力をかけられても、ダメなものはダメなのだ。
最初からはっきりと伝えて、揚げ足を取られないようにするのも、自分を守るために必要なことだと私は思う。

「できないことはできないとはっきりと伝える」
「下手に出過ぎず、お客様と対等の立場で接する」

こんなシンプルなことだが、あの頃の私は「丁寧」と「下手にでる」の違いが分かっていなかった。

いつかはまた大好きな接客業に戻りたいと思っているが、そのときは今までの教訓を胸に自信を持って働けるだろう。


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