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【連載小説】恥知らず    第3話『日曜担当:ミホ』

 

隣で爆睡しているマイの大イビキで目が覚めた俺は、時計を見て慌てて身支度を始めた。チェックアウトの時間が迫っているのだ、急げ!                            シーツをはだけてアニメ「はじめ人間ギャートルズ」の主人公ゴンの母ちゃんのように片方の乳房をさらけ出して、いわゆる片乳が露出している状態で爆睡しているマイの寝姿を改めてまじまじと観察していると実に滑稽で愉快であり、思わずだらしなく大口を開けている寝顔にマジックペンで落書きをしたい衝動に駆られてしまった。                           「マイ、起きろ!」                                    完璧なまでに熟睡しているマイはなかなか起きない。露出している片乳の乳首を割り箸でつまんでみたり鼻の穴にピーナッツを詰めてみたりと、思い付く限りの悪戯を試みているうちにようやく目覚めたマイは、すこぶる寝起きが悪かった。                                                「んん~、うおおん○☆・・・×○んんん・・・」                    「起きたかぁ?」                                  「あ・・・あれ?なんでフユピーおるん?」                         「寝ぼけとんか?…はよ起きや。」                              「ああ、そうか。ここラブホやったな…」                             極端に低血圧なマイは朝はいつもこの調子で、動きだすまでにしこたま時間が掛かるのだ。                                         やっとこさ身支度を終えて、俺らはチェックアウト寸前の時間ぎりぎりでラブホを後にして帰路に着いた。                                     「なあ、フユピー。今日は何か予定あるん?」                           「おぅ、あるで。大阪の友達んとこ行かなあかんねん。」                   「そうか、忙しいんやな…」                                「どないしたん?」                          「うちに寄ってかへんかなと思うて…」                            「すまんな。また寄るわ。」                                   六甲道駅北口で名残惜しそうにしているマイを降ろして、俺は阪急武庫之荘駅へ急いだ。本日は日曜担当の女子大生・大塚ミホと海遊館でデートなのだ。                                                ミホとは3ヶ月前にマッチングアプリで知り合い、お互い意気投合して交際を始めた。現在関係を持っている7人の女の中では最年少の18才で、今時の女の子らしい愛くるしい容姿と癒し系な雰囲気を漂わせているが、男性遍歴が既に二桁を超えるとんでもないビッチだと知った時は、さすがに度肝を抜かれた。                               幼少期より極めて早熟だったミホは小学5年で担任教師を相手に初体験を済ませたのを皮切りに、中学では1クール(3ヶ月)毎に交際相手を替え、高校に進学すると学生・教師を手当たり次第に、果ては援助交際にまで手を染めてその暴走はもはや誰にも止められないセックスモンスターと化していった。                                                 無軌道な性交を繰り返していれば当然の事だが、ミホも御多分に洩れず過去3度に渡り妊娠・中絶を経験している、がそれにも懲りず現在もマッチングアプリやSNSを始めとするあらゆる媒体を巧みに利用しつつ見境なく男漁りに精を出している。                                               ミホとはお互い後腐れのないセフレの関係を保っているので比較的楽な心持ちでいられるのがメリットであるが、性欲だけでは飽き足らず食欲と物欲も人一倍旺盛なので、その点は出費が嵩む分ややデメリットであった。

武庫之荘駅南口に到着すると、露出度高めの黒いキャミソールを着たミホがマックシェイクをストローでじゅるじゅる吸いながら待っていた。                       「遅いやん!遅刻!遅刻!」                                         時計を見ると、ミホの言う通り待ち合わせ時間を15分程過ぎていた。    「ゴメン、ゴメン。渋滞しとってなぁ…」                             苦し紛れの言い訳なのは、一目瞭然であった。                          「ウソやぁー。どうせチェックアウトぎりぎりまでおったんやろ。」               ミホはケラケラと無邪気に笑いながら言った。全てお見通しであった。   「フーちゃんも好きやなぁ…うちとええ勝負やわぁ。」                       ミホにだけは七股をカミングアウトしていた。ミホはおそらく十股ぐらいしていると思われる。                                   「腹減ったぁ!ステーキ食べよ!」                          本日のランチは国道沿いのステーキハウスと事前に決められていたのだ。 前述したようにミホは食欲も男顔負けの大食いモンスターである。                    性欲と食欲は比例すると言うが、ミホを見る限りあながち間違っていないと思われる。                                            グラマラスだが小柄で細身の体の一体どこに収納されるのかと思わせる程に、極めて短時間で大量の食糧を捕食するのである。その姿は愛くるしい容姿に似合わぬ、肉食の猛獣を彷彿とさせるものであった。                       「うち、特上キングサイズ欲張りコンボ、ライス・味噌汁・漬物・ドリンクおかわりし放題のやつね!」                                   例の如くミホのオーダーは、とても18才の小娘が注文する物とは思えない物であるが故に、ホール係の若いお兄ちゃんも若干引いていた。俺は至ってノーマルなランチセットを注文した。                                   日曜のお昼時という事で店内はファミリー層が多く、至る所で幼い子供が発する奇声、怒声、泣き声が響き渡り、すこぶる騒々しい様相を呈していた。「ミホは今、男何人おんねん?」                                       ミホは大口でステーキを頬張りながら、大きなどんぐり眼をより一層大きく見開いて、うんうんと言いながら答えた。                                 「さあ、10人位ちゃう?ちゃんと数えてへんしぃ…何?気になる?」   「既婚者もおるやろ?ヤバい事にならへんのか?」                        「おるで。見したろか?」                                     そう言うとミホはおもむろにスマホを取り出して、とある中年男の写メを俺に提示して詳細を語りだした。                                      「このおっちゃんとは不定期で会うてるんよ。でな、自分が出張してる毎週水曜に奥さんが浮気してるみたいやて。まぁ、お互い様やね。」                          その話を聞いて、俺はまさかと思いミホに問い正した。                      「その人、苗字なんて言うん?もしかして水野か?」                       「ああ、そやで。なんで知っとん?」                                ミホは素っとん狂なリアクションで返した。水野は水曜担当の人妻・チエの旦那で間違いなかった。                                  「そのおっちゃんの嫁はんと毎週水曜に密会してんねん。」                     「マジかぁ、おもろぉ。うちら水野夫婦と不倫しとんやな。笑うわ。」     ミホは既に三皿目のライスに肉汁したたるハンバーグをのせて、貪るようにガツガツと頬張っていた。あまりに品のないワイルドな食べっぷりに、俺は毎度の事ながら恐れ入っている。よく他の男にドン引きされないなぁと思わずにはいられなかった。                                    

ランチを終えた俺らは、ステーキハウスを後にして阪神高速湾岸線を経由して海遊館へと赴いた。                                          やはりここも来場者のほとんどは、家族連れ、子供連れが占めていた。                         どこへ行っても子供はむやみに賑やかで傍若無人で騒々しい事この上ない。引率する親はさぞかし大変やなぁとつくづく思う。俺は結婚などしたくないわと改めて思った。                                                ミホは無邪気なもので、ジンベイザメやイルカをハイテンションで観覧していた。俺はさしずめミホの保護者のようであった。                                                館内を一通り見て回った俺らは、陽も傾いてきたので、天保山の観覧車に乗り込んだ。                                                         夕陽がうろこ雲が漂う大阪湾の空をオレンジ色に染めて、夏の終わりと秋の訪れを感じさせていた。                                      「うわぁ、綺麗な夕陽やなぁ…」                                   ミホは眼前に広がる夕陽をうっとり眺めて感嘆の声をあげていた。                    俺は観覧車という極めて密閉された空間内に妖しく漂う、ミホのグラマラスでエロチックで気絶するほど悩ましい身体から醸し出される、狂おしくツンと鼻につく汗ばんだ体臭に最前から無性にムラムラしていた。                               「ああぁ、ミホ…あかん、やらしてくれ…」                               完璧なまでに理性と秩序を失い、汚れた煩悩にまみれて畜生以下に成り下がった俺は、観覧車という公共の場であるにも関わらず人目もはばからず、ミホの身体に覆いかぶさりむしゃぶりついて、己の劣情を撒き散らしていた。  諸君、湧き上がる欲望を抑圧してはならぬ。己が欲する思いに嘘をつく事は、神に背く事と同様の罪悪であると肝に銘じて頂きたい。                              「ああぁ、フーちゃん…ええわぁ…」                              辛抱たまらなくなった俺らは観覧車で貪りあったが、残念ながら時間が足りないので、そそくさと天保山を後にしてラブホで続きを致す事とした。

明日は俺は仕事、ミホも大学の授業があり宿泊は出来ぬが故に、3時間休憩の後に帰路に着いた。                                               途中で立ち寄った国道沿いのラーメン屋にて、ミホはチャーシュー麺大盛り2人前、チャーハン大盛り2人前、餃子3人前を平然と平らげていた。


                   つづく                                             

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