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【メディアの在り方】安倍元総理の銃撃事件と参議院選挙を終えて【小レポート】

※このレポートは2022年7月末頃に作成したものとなっており、現在の情勢とは異なっている部分があります。予めご了承ください。

1.はじめに

 衝撃的な事件と参議院選挙が終わって数週間が経過した。事件のほとぼりは未だに冷めず、現在も事件に伴う宗教や国葬の話で界隈は持ちきりになっている。多くのメディアも某教団関係や国葬についての話題を積極的に取り上げている。
 しかしながら、その話題については事件や選挙からはどんどんズレが生じてきている。事件発生当時は事件の真相や選挙による勢力争いに焦点が当たっていたが、いまやその話題を出しているメディアも人物も少ない。話題が流動的に変わっていくのは当然のことながら、今回の件に関してはいささか流れが速すぎるようにも感じた。
 このレポートでは、メディアの表現の自由、外交、憲法改正の点について論じていきたいと思う。

2.ジャーナリズムの表現の自由と報道について

 メディアは表現の自由が保障されているからこそジャーナリズムが自由に政治報道を行うことができ、それが一般国民の知る権利を保障するための情報資料となり得る、という話があった。その中でもジャーナリストは取材の自由、報道の自由を持ち得ているとされ、所属しているメディアの社説や自身の考えに基づいて取材、記事作成を行い、報道する。つまり、ジャーナリストは自身の考え方に基づいて正しいと考えるものを自由に報道することができると言える。
 これにより情報を得た国民が政治参加しやすくなったり、政治に意見を述べたりすることがしやすくなることが言われている。反面、メディアによって意見や情報が変わってきたり、情報源となるものが違っていたりするため、メディアを通して知った情報をどのように扱うのかという点において国民の判断力が求められているとも言える。
 上に述べた通り、現在メディアでは某宗教と政治の関与について多く取り上げられている。事件当時は宗教名が伏せられていたりするなどしていたが、今ではその名前を伏せることなく記載し、かつ民主党とのつながりを表沙汰にしているメディアが多くを占める。その事に対して岸田総理は「その関係性について説明をしていくべき」だと主張している(※1)。しかしながら関係性のある議員が全員明確な説明をしている訳ではない。朝日新聞のネットニュースでは誰が説明を行って誰が行っていないのか、誰が繋がっていたのかというところは濁して掲載されている。この辺りは政治家本人の口から名前を載せない様に言われているのか、朝日新聞側があえて掲載していないのかは不明であるが、関与のある議員については名指しで記載しており、疑惑を深める結果になっているようにも見えた。
 岸田総理の主張については協会名を濁して述べたことも含めて「他人事」「表沙汰にしたくないのが分かる」などとの意見も少なくない。Yahoo!ニュースのコメント欄等はそれが顕著に表れており、安倍氏や自民党全体を含めての批判が集まっている(※2)。注目度の高い話題であり、多くのメディアが取り上げていることもあり情報の量が多くなっている。容疑者の発言から広がった宗教問題が、現在では事件の手を離れて独り歩きしている状態になっている。もはや証言が正当なものだったのかどうかもどうでもよくなっている人間が多くなっているのではないだろうか。
 この話題の移り変わりは間違いなくメディアが取り上げる話題を少しずつ移動させていったからであると考えられる。記者が情報を集めなければ政界の情報を国民が得ることは困難なのは言うまでもないが、その事実こそがメディア自身が政治に対してアプローチをかけることができる一つの大きな力となっているのではないかと思う。新聞(などのメディア)の役割は真実を国民に報道することにあるとしており、実際その通りだと感じているが、その報道の仕方や情報収集の仕方によって見えてくるものが変わってくるのも間違いのない事実であり、そこにどれほどの意図が含まれているのか、というところは取材を受ける政界側も、情報を見る国民側もよく判断していくことが必要になってくるのではないかと思う。

3.安倍元総理の外交政策と国葬

 現在、左派勢力を中心に国葬反対の声が広がっている。国葬反対派の意見としては「国葬をするほどの業績がない」「勝手に税金を使われたくない」「安倍氏の神格化に疑問」「強制的に決められたのが嫌」という声が多数を占めているように見える。対して賛成派の意見として大きく取り上げられているのが「国葬が臨時外交の場になる」という利点である。安倍政権は賛否の激しい政権であったが、その中でも外交に対して積極的に行っていたことは印象的である。首相官邸の特集ページ(※3)によると、政権中に訪問を行った回数は81回に上り、訪問した国は176か国となっている。政権を握っていた時期が長かったのもあり、その訪問回数は他の総理と比べても圧倒的に多い(※4)。その成果もあってか、事件後は米のバイデン大統領をはじめとした多くの国から追悼のメッセージを送られている。そのため、追悼の意を込めて訪問しに来る外国の有力者たちも多いことが予想されている。その訪問に際して場を設けようとしているのではないかと考えている賛成派は多い。
 しかしながら、反対派の声は大きくデモなどの抗議活動が行われ、2項で取り上げたような政界(と言いつつその多くは自民党と揶揄されている)と宗教とのつながりが数々表に出るようになると、反対派の声はさらに活性化していった。7月31日時点で共同通信社が行った世論調査によると国葬反対派が53%と半数を上回り、自民党の支持率は同年7月11,12日に行われた前回と比べて12.2ポイント減少して51,0%、不支持率は7.1ポイント増加の29.5%という急落を果たした(※5)。宗教の関与疑惑などによる不信がこの急落を引き起こしたことが読み取れるが、賛成派の上げている外交政策として国葬を利用するといった視点は全く持って相手をされていないともとれる。
 国葬反対派の意見として、「自民党の宗教関与を有耶無耶にされるのを阻止したい」というものも見られた。上記にあげた強制的に決められた事にも通ずるが、これは宗教関与を有耶無耶にしたうえで持ち上げ、政権を守ろうとしているという推測である(※6)。ここでは安倍政権は空っぽで何も実績が生まれていなかったからこそ祭り上げて持ち上げたい、という旨があったが、実際にそうだっただろうか、というところには疑問が残る。上記したように安倍政権下に行われた政策は多く、外交政策においては目に見えて他の政権よりも積極的に行われていたのが見て取れる。モリカケ・サクラ・アベノミクスと問題とされた政策や事件も多く浮上したが、政策が無駄だった、悪化の原因になった、と判断されるにはあまりに悪意があるようにも感じる。それだけ悪い政権であったのであれば、何故歴代で最も長い政権となり得たのだろうか。このような言論は、裏を返せば「国民の見る目がなかったから」などという自虐にもなりかねない。
 そしてそれらの実績をどう見るかを度外視して宗教問題で国葬や安倍氏の扱いも決めてしまうことに、いくらかの不安と考えのなさを感じてしまう。特に国葬においては外交面という賛成派の意見を完全に無視した状態で反対派の話がどんどんと先に進んでしまっている現状には疑問を感じてしまう。岸田総理の急な決定に対して何も思わない訳ではないが、それ以上に現在の騒ぎに対する疑問が多く、とても国民が冷静に判断できているとは考えられない。国全体がこの問題に対して沸いているのは理解できるが、政界も国民も、もう少し理性的に、理論的に議論を進めてもらいたいところである。

4.憲法改正に関して

 私は憲法9条の改正に関しては賛成派であり、現在の日本の憲法の異常性(世界的に見ても改正が少なすぎる点等)から、一度大きく見直しが必要ではないかと考えている。それを踏まえて、安倍政権下で行われた憲法改正の動きを見ていきたい。
 憲法改正の草案が生まれたのは、第一安倍政権下の2005年の事である。それが2012年に一度改正され、この草案は現在も閲覧が可能となっている(※7)。2018年にはそのうちの4項目(自衛隊明記、緊急事態条例の創設、参院合区の解消、教育の無償化)を取りまとめ、これら4項目を迅速に改正に持っていこうと動いていた。安倍氏は事件の5日前である7月3日にも公園で憲法改正について力説しており(※8)、参議院選挙においても憲法改正を大きな議題として取り上げようとしていた。しかしながら、その安倍氏が志半ばに倒れ、憲法改正に一時のストップがかかってしまったようにも見える。岸田総理は憲法記念日のメッセージにおいて「施行から75年が経過し、時代にそぐわない部分は改正していくべきだ」と述べており、改正に対して前向きに検討しているような発言をしているが、現在の情勢上それどころではない状況が続いている事もあり、憲法改正の議論が出来るようになるのはまだまだ先の事になってしまうのではないかと考えられる。
 また、改正案に関しても反発があり、特に草案に関しては「国民の権利が奪われる」と声を上げていたり、「9条の改正によって日本が戦争を起こす」と論じていたりする者も少なくない。草案に関しては議論の余地が多いに残っており、先に述べられた4項目においても、そのまま通していいものか考える必要性があると感じるが、一部では草案全てが通されると騒がれていることもあり、情報を十分に得ないまま声を上げている者も見受けられた。改正案について良く調べずに声を上げることももちろん問題ではあるが、憲法改正について否定的な議員らが議論を拒絶するなどの「改正の話題自体をタブーとする」風潮も広がっていた。ロシア・ウクライナ間の争いが起きてからはその風潮も薄れていったが、実際にどこかで事が起きるまで不可侵領域として触れずにいた事自体に問題があったと思われる。結果的に改正案の議論が推進派の中で水面下に行われ、満足の行く議論が行われなかったことも憲法改正が中々行うことができない原因だったのではないだろうか。
 現在の情勢ではまともに憲法改正に関しての議論が行われるのは随分先の事になることが予想されるが、多くの人間が憲法改正について考え、議論していけるようになることを願っている。

5.最後に

 大きな事件が起きたことにより政界へ大きな注目が集まる今、メディアの力というものは相対的に大きくなっていることが推測される。多くの国民はメディアの報道を見聞きし、それを頼りに行動を起こす。特に近年は政界不信がよく取り上げられるほど政治家に対しての信頼度は低く、また興味も薄くなっている。この興味の薄さは日常生活が忙しくて政治の事まで頭が回らない層ももちろん多いが、「自分が政界に関わるメリットが見つからない」「誰に入れても結局同じだから関わる気になれない」という層が存在するのは紛れもなく政界に対する信頼の薄さが引き起こしている現状である。そして今、また政界に対して大きな不信感をもたらす事象が次々に取り上げられ、報道されている。
 この情報が錯綜している今だからこそ、国民一人一人の冷静な判断力と情報収集能力が問われていると感じている。特に宗教関係が絡んでいると嘘や思い込みの証言も多くなり、判断が難しくなる傾向がある。得られる情報を鵜呑みにせず、論理や根拠を確かめて判断ができる人間が増えて欲しいと思うと共に、自分自身も出来る限り中立に冷静に判断していく事を心掛けたい。

※注釈

1.「岸田首相、旧統一教会との関係『各議員が説明することが大事』」朝日新聞デジタル 2022.7.31
https://www.asahi.com/articles/ASQ706CV2Q70UTFK019.html
2.「岸田首相“統一教会”について初めて語る『政治家がそれぞれ丁寧に説明するのが大事』」日テレNEWS 2022.7.31
https://news.yahoo.co.jp/articles/7f1bae03cd6a10b53688d5b33becb41acb33cda1
3.「地球儀を俯瞰する外交」首相官邸HP 2020.1.17
https://www.kantei.go.jp/jp/feature/gaikou/index.html
4.「総理大臣の外国訪問一覧」外務省HP 2022.7.4
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page24_000037.html
5.「安倍元首相国葬に反対53% 内閣支持12ポイント急落51%」共同通信社 Yahoo!ニュース 2022.7.31
https://news.yahoo.co.jp/articles/faa72f20f562ac0a47abe6669d5030aad249b944
6.「なぜこれほど拙速に? 安倍元首相『国葬』を決めた自民党の事情」現代ビジネス 赤坂 真理Yahoo!ニュース 2022.7.30
https://news.yahoo.co.jp/articles/fd45d955bf7519c8d4d4b8c736d49f971674e6b8?page=1
7.「日本国憲法改正草案」自民党憲法改正実現本部 2012.4.27
https://constitution.jimin.jp/document/draft/
8.「安倍氏、5日前に千葉で講演 『憲法改正しかない』」産経新聞ニュース 2022.7.8
https://www.sankei.com/article/20220708-A7K27LJV5NNN5HQ2OYINE252EM/

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