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幻月

いつもは十二時を越えたらすぐに布団に入って寝るのに
悲しい気持ちのときはいつもカーテンの隙間から見える月をずっと眺めている。

星やイルミネーションの光とはなにか違う月の光が
額をそっとなぞった涙をいっそうに輝かせている

別に特別美しいと感じたわけでわない
でも月には私を引き付ける力がある。
夜の向こう側に広がるビル群の航空障害灯の赤い光とは違う魅力が
そうでなければ涙を流すこともないだろう。

しかし、しばらく考えてみたが答えは出なかった
なので見る場所を変えてみようと私は考えた。

次の日の夜私は夜の世界に飛びだした
明るい時間に見る世界とは全く違くて
どこか怖くて、幻想的で
生まれて初めて夜と言うものを美しいと思った

上を見上げると
カーテンの隙間から見る月の形とは違う丸い月が
青い光を放って輝いていた。

部屋の中で見た月はとても遠く感じたが
外で見た月は手を伸ばせば届きそうな位なぜか身近に感じた。
そっと手を伸ばしてみるが届くことはなかった
それがわかると私はゆっくりと手を下ろした。


しばらく月を眺めていると自然とまぶたから涙がこぼれ落ちた
涙を流した理由は、私の心が病んでるからか
それとも月が消えるのが寂しいと思っているからか
その答えは考えなくてもすぐにわかった

消えないでと、ずっとそこにいてと願っても、朝になれば月は、姿を消してしまう。
どんなに人を愛していても時間が経てば、死んでしまうのと同じように
好きを伝える制限時間は決まっている

…..私は知らないうちに月を人と見立てて恋をしているかもしれない
だからわかれてしまうのがこんなにも寂しく感じるのだ
明日の夜また君が輝いてくれるとわかっていても
明日の夜まで私が生きている保証なんてどこにもない
言わば今日が君と会える最後の日になるかもしれないのだ
そう思うと少し鼓動が早くなった気がした。


午前5時頃
月の光が消え始め陽の光が強く僕の頬を照らした。
不安な気持ち抑えて僕は空に向かって告白した。
また君を見上げてもいいかと
まだ君を愛してもいいかと
消えそうな君に届くような大きな声で問いかけてみた
当たり前だが、声は何も聞こえて来なかった
しばらくすると月の姿は消えて空はオレンジ色に染まった
また君だけがいない1日が今日も始まった


あの日から君はしばらく私の前に現れなかった
それはある日どこかに行ってしまった彼女と同じくらいに急だった。
私にはこの世に一人だけ愛してる人がいた
しかし、その人は私の知らない場所で交通事故で亡くなった。
それを聞いたとき私の視界が真っ暗になった
何を見ても、何を食べても、何も感じなくなってしまった。
それでもなぜか泣けなかった
大切の人が死んだのに
悲しいという感情が湧いてこなかった


彼女の葬儀を終えた日、私は何故か夜の景色を眺めていた
何か気配を感じたというか、よくわからないがとにかく夜空を眺めていた。
そこには青い月が一つ輝いていた。
私はその月をみた瞬間
君の笑顔が頭の中でよぎった
その途端に、回りの景色が明るくなり、私は静かに大粒の涙を床に落とした。


そこで始めて実感したもう彼女はこの世界にはいないことを
きっと私はそのことに、気づいていた
でもそれを悪い夢で片付けていた。
だってそうであって欲しかったし
そうでなければ私は永遠に後悔することになってしまうから。
でもそれよりも今は
愛してると言えなかった君に
こんな私と一緒にいてくれた君に
サヨナラも言えなかった君に
もう会えないと思っていた君に
会えたことが嬉しくて
一人しばらく泣いていた
私が泣き終わると彼女は優しい顔で私をみて微笑んでいた。
そして静かにサヨナラと告げて私に手を差しのべた
私も君の手に手を差しのべた
届いていないはずなのに
君の手の感触が
君の手の温かみが感じ取れた
そして私は声にならない声でごめん、ごめんと何度も謝った。
そして最後にサヨナラと笑って君に告げた
私が笑うと彼女もまた笑ってくれて
そして静かに
消えてしまった
しばらくすると
ただ朝を告げる鳥の声だけが私の耳の中に強く響いていた。


君に別れを告げたあの日の記憶は
なぜか覚えていなくて
ずっと忘れていた
しかし、外に出て月を再び眺めるうちに
そっと思い出したのだ
今考えればあれは
夢か幻のようなものだろう
実際それから月を見ても君の顔は浮かんで来なかった
しかし僕は今、月に恋をしてしまった
それは月を君の面影があるからなのか
それともただ美しさに見とれたからなのか
それは今度の夜に君を眺めて考えることにした。




月が見えるなら
まだそこにいてと願うのは罪ですか?
消えないでと願うのは罪ですか?
人ではないものに告白するのはおかしなことですか?
何度自分に問いかけても解らなかったこの問いを
あの月が輝く十二時に
誰か教えて




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