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(詩)ハナタバ

別れの言葉はいつも同じだった
別れの場所もいつも同じだった
抱く感情もいつも同じだった
何一つ変わることはなかった
桜が散るあの丘で
君は涙を流す
僕をみて
感情をおし殺している僕をみて
泣いている
空が赤く染まった頃に
君は別れを告げて駐車場に向かう
僕はそれを見届ける
車が見えなくなるまで
君が笑うまで
見届ける

やがて1年が過ぎる
桜が咲いた
春がやって来たのだ
どこか嬉しくてどこか悲しい春が
車の音が駐車場の方から聞こえる
君がハナタバを持って車から降りてくる
僕をみた君は静かに笑ってこちらに向かって来る
そして一言
「久しぶり」と
僕も声を出すが聞こえてはいないだろう
桜の花弁が舞う頃君はしばらく昔の話をした
僕と出会った日のこと
僕と喧嘩した日のこと
僕に恋をした日のこと
僕がいなくなった日のことを
君はたくさん話していた
僕は君には見えない相槌を打っていた
でも君の優しそうな顔を見ていると見えているかもしれないと思った。
また空が赤く染まり出した
君はそっと立ち上がる
そして優しい声で
「またね」

別れの言葉を残したあと
君はゆっくりと駐車場に戻っていった
僕はまた車が見えなくなるまで見届けた
車が見えなくなった頃僕の目から涙がこぼれた
僕は泣いていたのだ
僕はずっと望んでいた
僕が散ったあの春の日から
君が心の底から笑うことを
君が幸せになることを
君が僕のことを忘れて生きることを
でも今日それがかなった
全部じゃないけれど
やっと君らしい顔をみた気がした

月が出始めた頃
僕は静かに眠った
まるで僕が消えてしまったのように

しばらくして桜が咲いた
また1年がたった
君がまた僕がいた場所にハナタバを置く
桜が花弁が舞う頃に君がまた話を始める
その話を聞く僕はもういない。


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