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《良心を持たない人たち》紹介③

氷人間スキップ

スキップはサイコパスであった。
スキップは美少年であったが、異性には興味を示さなかった。それどころか、金にも興味を示さない。普通の人間が楽しめるものを楽しめない。

彼が楽しみを見出したものは、カエルを使ったゲームであった。
内容としては、捕まえたカエルをひっくり返してハサミで腹を突き刺し、もう一度ひっくり返して生気が無くなっていく過程を観察するというものだ。
ゲームの内容はエスカレートしていき、ナイフから花火を使うようになっていった。
花火をカエルの口に突っ込み、湖に投げるのだ。


サイコパスキップの大出世

これがエスカレートしていくと、いずれ人を殺したり、社会的に孤立することが予想出来る。
しかしスキップはそうはならなかった。むしろ出世し大成功したのだ。
妹のクレアは、スキップの目つきが狂気じみているということを指摘していたようだが。

それもそのはず。嘘がますます巧妙になったのだ。
そのうえ結婚しても女性関係はだらしなかった。しかし結婚する前に、スキップは妻になる女性の気質を見抜いていた。浮気をしていても、強く口出ししてこない人間性だと。スキップは手当り次第に女を漁っていた。

その後スキップは取締役に就任したが、部下から横暴さや邪悪さを指摘された。
訴訟までされたが、会社側はスキップが貴重な人材だと判断したため、部下たちに口止め料を払って示談で済ませた。
問題を起こす度にこの手法でことを収めた。

危険など気にしない

スキップは人を道具としてしか見ていない。
女は性的なもの。まるでラブドールだ。
父親への期待は遺産のみ。
部下も友人も駒でしかない。
妻や子供も世間体を維持するためのカモフラージュでしかない。

そして何より、自分の心が空であることを悟らせない擬態能力だった。
感謝の気持ちなど全く湧かない。
嘘をついても罪の意識が無いため、中途半端な良心からくる不自然な振る舞いなど一切無い。ほとんど見破られることはなかった。
ただ、それらの擬態が効果を発揮しない場合は、《恐怖》を使う。
妹のクレアが恐怖した、狂気的な目で見られた人間は、抵抗出来なくなる。

そしてサイコパスのもうひとつの特徴、《刺激を求める》というもの。
危険を冒すが、自分だけではなく、他人も巻き込み、同じくらいの危険度を背負わせてしまう。

仮想世界に生きているような

スキップのようなサイコパスの原動力はなんなのだろうか。
金にも興味が無い。
絆にも興味が無い。

本書においてサイコパスの目的は勝つことらしい。
自分以外の人間に興味が無く、人生はチェスのようなゲームでしかない。
スキップが少年時代、遊びの玩具にしたカエルと同じだ。
自分の駒にしてしまえば、ナイフで刺そうが花火を詰めようが自由なのだから。

スキップは例外

スキップはサイコパスであり、最高責任者にまで上り詰めた人間であったが、このようなサイコパスはごく一部だ。スキップは知能が高かった。同じサイコパス気質を持っているものでも、知能に差があると、手口も違う。
スキップは知恵を働かせて、上手い具合にトラブルを回避していたが、見通しが立てられずに逮捕されてしまうサイコパスもいる。

自覚もない?

サイコパス本人は罪悪感どころか、悪いことをしている自覚すらないらしい。
つまり倫理観が根本からズレているのだ。
サイコパスの特徴である《無責任さ》は、この倫理観のズレから来ていると思われる。
責任という認識がそもそも大多数の人間とは違う。
自意識も欠けているとのこと。自分自身のこともよく分かっていないのだ。
しかし、周りに人間が間違っているということは心情として持っているらしい。
自分だけが生きた人間なのだとさえ思っている。

これだけ聞くとサイコパスは幸せな感性をしていると思ってしまう。少なくとも僕はこんな図々しくいられるサイコパスが羨ましくなってしまった。しかし本書の作者であるスタウト氏は、サイコパスは決して幸せではないというようなことを述べている。
というのもスタウト氏自身が、実際にサイコパスとされる人々から「虚しい」とか「虚ろだ」とかいう類の言葉を聞いていたからだ。
人間をアニメのキャラクターのように、記号や一面的にしか見れないのだ。他の人間が味わえる複雑な感情も、サイコパスには味わえない。
僕たちがサイコパスの《良心を抱かない》《罪悪感がない》という感覚を理解できないように、サイコパスも《絆》《愛情》を理解できないのだ。

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