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民主主義を問う

今回から数回にわたって、民主主義について考えてみようと思います。

政治について語ることは、いくらタブー視しようとも、国家の中で生きる私たちには避けては通れません。政府の経済政策は私たちの家計や消費に直結し、社会福祉の充実はQOL(生活の質)や幸福度に大きな影響を与えます。

だからこそ、民主主義が根幹から揺るがされているといわれる今、私たちの生活様式を規定し支配するこの民主主義というシステムについて考える必要があると考え、このコラムを立ち上げました。 


さて、今回のテーマは「選挙とインターネット・SNSの利用」です。
インターネットの利用拡大が選挙に与えた影響についてじっくりと考察していこうと思います。

①日本国内のインターネットの利用状況

現代を生きる私たちの生活にインターネットは不可欠な存在です。総務省の統計によると、2020年のインターネット利用率(個人)は83.4%であり、13~59歳の各年齢階層では9割を超えます。またSNSの利用率(個人)は78.7%であり、特に60~79歳の年齢階層では大きな伸びが見られます

新型コロナウイルスの世界的な流行にともない、外出自粛やテレワークが呼びかけられたこともあって、これらの数字は今ではさらに大きくなっていることでしょう。

総務省「通信利用動向調査」
総務省「通信利用動向調査」

このような急速なインターネットの発達は私たちに生活様式の根本的な変化を要求しました。顔も名前も知らない他人との交流はtwitterやinstagramなどのSNSの出現によって当たり前となり、膨大な情報がいまこの瞬間もインターネット空間に蓄積しています。また、21世紀のグローバリゼーションの潮流はインターネットと呼応して、誰もがメディア、誰もが発信者となれる歴史上類を見ない世界を生み出しました。時代は変わったのです。

しかし、このようなインターネット利用の急激な拡大は必ずしもよいことばかりとはかぎりません。むしろ副反応とでも呼ぶべき”負の側面”が大きすぎると私は思います。ここからはそれらを一つずつ見ていきましょう。


②世論の二極化

アメリカの憲法学者キャス・サースティンは、インターネットにおける世論形成のプロセスにおいて集団極性化が見られることを指摘し、この現象をサイバーカスケードと名付けました。

インターネットには、同質の考え方や意見、思想をもつ人々を結びつけやすい特徴があります。現在のインターネットの利用人口を考えれば、自分と似た考えの人々を数十人に見つけるのにも、それほど時間はかからないでしょう。

田中辰雄(2018)ワークショップ「ネットは社会を分断するのか」

さて、こうして集まった似た者同士の集団では(経験的にも分かることだとは思いますが)異質な者、すなわち自分たちとは異なる意見を持つ者を極端に排除しようとする傾向が見られます。開放的なはずのインターネット空間で閉鎖的な空間が成立し、先鋭化するのです。

ではサイバーカスケードが政治に与える影響について考えてみましょう。
まず、世論の二極化は避けられません。エコーチャンバーやフィルターバブルなどといったSNSのアルゴリズムによって、人々は自分が好む意見ばかりを目にし、反対意見はシステム的に表示されることが少なくなります。結果、個人の考えはますます極端で排他的になっていくのです。

トランプ大統領が立ち上げたSNS「Truth Social」はその究極の形態といえます。そもそも自分と同じような政治的立場の人しか利用していないのですから、これまでのSNSと比べてもさらに先鋭化するでしょう。

③デマとポピュリズム

”フェイクニュース”という言葉を多用したトランプ前大統領

また、デマ情報がFacebookやtwitterなどを通じて瞬時に社会に広がる危険性もあります。センセーショナルな話題やフェイクニュースは何も考えていない大衆によって社会に拡散され、一国の選挙結果にも影響を及しています。

2016年のアメリカ大統領選挙では数多くのデマ情報が流されました。「ローマ教皇はトランプ氏を支持している」などといった馬鹿馬鹿しいニュースが、しかし多くの有権者に信じられたのです。

選挙コンサルティング会社による個人情報の不正収集、および政治利用も問題となりました。これは、イギリスのケンブリッジ・アナリティカ社が学術目的でFacebookから入手した8,700万人の個人情報を悪用し、アメリカの大統領選挙におけるトランプ氏の当選やイギリスのブレクジットを誘導したという事件で、世界的にも大きな波紋を呼びました。

また、政治家もこの社会的性質を利用して、感情を前面に押し出したり、大衆の気に入りそうなことばかりを演説で訴えます。いわゆるポピュリズム(大衆迎合主義)です。

古代ギリシアに存在したデマゴーグやポピュリストたちは、形を変えて現代社会にも跋扈しているのです。


おわりに

民主主義の危機が叫ばれるようになって久しいですが、その中でもインターネット利用の拡大はこれまでとは性質の異なる新たな脅威に感じられます。

もちろんインターネットのすべてが悪いとは思いません。インターネットが政治にもたらした恩恵もたくさんあります。使い方を間違えなければ、インターネットは人間の可能性を広げる素晴らしい発明でしょう。

しかし、残念ながら今の社会は、今の人類はインターネットを使うにはあまりに未熟です。日々誰かを誹り、異質を切り捨てる私たちにインターネットを使う資格はあるのでしょうか。

民主主義を問うというのは、私たちの社会の在り方を問うことでもあるのです。


参考資料

・情報通信白書 令和4年度版
(総務省 2022年11月7日閲覧)

インターネットの利用は世論を二極化するのか
(総務省 2022年11月4日閲覧)

世界最大級のプライバシー事件「ケンブリッジ・アナリティカ問題」とは何だったのか(プライバシーテック研究所 2022年11月13日閲覧)

・フェイクニュース拡散のしくみと私たちに求められるリテラシー
(山口真一 2022年11月13日閲覧)