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かていがくしゅう

息子は初子だったのであるが、この母は教育熱心ではなく

「とにかく遊べ。体使って頭使って遊べ」

習わせたのはスイミングだけである。平仮名と、自分の名前は漢字で就学前に書けるよう教えたが、だんだん勉強が難しくなってきて、
「コレさ」
って聞かれたらどうしようとおののいた。私は理数系がとにかく苦手なのである。

子供たちはこの母の実力を薄々感じていたのか、聞いてくることもなかった。

というか、彼らが勉強や宿題をしている姿あまりを見たことがない。傍に張り付いてやらせても嫌がるので、自己責任としていた気がする。

自分を省みると、
「宿題?そんなもん」
だったし、子供は親の過去を知らないから、親は嘘まで言い立ててエラソーに指導したりするのだが、私はそれが出来ず、自分の過去を考えると赤面するばかりであった。

それでも、小学校に入ったばかりの息子は殊勝にも
「かていがくしゅうする」
と言ってノートを広げていた。といっても、課題以外の事はどうしたらいいのかわからないようだ。

計算問題を書いてやっても答えをすぐ書いて終るのであるが、学校からの指導要領には

「家では、一日二時間机に向かって学習しましょう」

むむむ・・・・
時間を稼ぎつつ、ノートを埋めつつ・・・。何しろ小一である。

よその子の実力もわからぬし、教科書を見るとまだまだ難しい漢字もない。字はしっかり書けた方が良いに決まっているので
「あいうえお順に、知ってる言葉を書いたら?」
と勧めると、息子は
「そっか」
といそいそと始めた。

「じゃ、今日は 『あ』ね。『あ』から始まる言葉」

「ワカッタ」

息子は

あじさい
あさがお
あめ(雨)
あめ(飴)
あけび
アロエ・・・・

なんて書いて行く。

「いいんじゃない。これでノート1ページすぐ埋まるよ」

「よし」 


翌日は
「い」
である。

いちご
いちぢく
いか
いわし
いも・・・

食べ物が多いな・・・まあヨロシ。担任の先生は毎日ノートをチェックしてくれて、花丸をくれる。コメントもある。

「よくそういう言葉知っていましたね、すごい!!」
なんて書いてきてくれる。
「なるほど、こうやって子供を導くのだな」
と感心する。
息子は毎日続けた。頭に浮かんだものを書くだけだから楽なのである。それまでの人生(6.7年だが)見聞きし覚えたものが出てくる。

ある日ふと見ると

きんたま

と書いてあった。

その日は
「き」

その他

きちがい
きけん
きんにく
きせいちゅう

・・・

私はこのような親なのでそのまま提出させた。先生はいつになくでかい花丸を付けてくれていた。
きんたま付近に
「すごい!」
と書いてあった。

ノートの2日前のページに戻ると

「お」

この間はなかった
「おっぱい」
がわざわざ欄外に書き足されていた。

このまま行くと・・・・

息子は殊勝に書いているようだが実はふざけていた。書きながら
「イヒヒ・・・」 
と笑っている時もあった。私は静観することにした。先生の反応も実は見たかった。

「し」

の時は

しいたけ
しゃっきん
しにがみ
したい

・・・・・(^_^;)

先生は相変わらず大きな花丸をつけてくれる。

覚えた漢字も使うようになったので、盛んに褒めてくれたがいいのだろうか。変なことが頭をよぎり、危惧しつつ黙って見ていたあるひ、ついにその日が来た。


「ま」

まんじゅう
まつげ
まご

・・・。


なーんだ。

息子はチラっと私を見て
「書かないよ」
と言った。そういう配慮(というのか)が出来るのがオソロシイ。(読者の皆様、何を想像されましたか)

子供は分らないでいるようで、実は大人の気持ちを実に的確に把握しているものである。

先生も気が抜けたような花丸を付けていた。

あれから幾星霜。息子はあの時のノートの事なんかとっくに忘れてしまっているだろうが、親をやっていると折々こういうことを思い出し

「イヒヒ」

と笑うのである。この私一番おかしいのだと自覚する。



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