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デンマークと高齢者とICT

若宮正子さんとの出会い

2022年6月、日本から若宮正子さんがデンマークを訪問された。スマートシティ・インスティチュートの南雲さんに紹介されて、「デンマークに近いうちに行きたいと思っている」という正子さんとオンラインでお話しするようになった。話はとんとん拍子に進み、6月の数日間デンマークの視察をお手伝いすることになった。

若宮正子さんは、御歳87歳の日本最高齢のプログラマー、アプリの開発者、高齢者のオンラインコミュニティ「メロウ倶楽部」の副会長やデジタル田園都市国家構想実現会議構成員、デジタル庁デジタル社会構想会議構成員を務めていらっしゃる。高校卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)で定年まで勤め上げ、コンピュータを触ったのは58歳ということだが、その後、2017年にはアプリ「Hinadan」を開発し、それが認められてApple CEO ティム・クック(Tim Cook)に招聘され、米国で対談したり、デジタル化に関してオードリー・タンさんと対談したり、大忙しの毎日を過ごしている。

長期のプロジェクトいうわけではなく、数日のお付き合いだし、訪問先は慣れ親しんだ(?)デンマークの組織である。ただ、訪問を終えた今、振り返ってみると、思いがけずに考えさせられたことや、正子さんの視点を通してデンマークを見ることで、自分一人では得がたい、たくさんの発見があったこともあり、考えたことを記録しておきたいと思った。高齢者・当事者という切り口で今の電子国家デンマークを見ることで、私の中でデンマークのインクルージョンの達成度が明確になったし、同時に、先進デジタル国家と言われるデンマークにおいても必要な改善点が多々あることもわかった。

デンマーク電子政府庁に訪問した

デンマーク、高齢者、ICTの文脈で今後考えたいこと

今後、考えて行きたいことは、「高齢者にはできない?!」「参加型デザイン」の二つだ。

『高齢者にはできない?!』

私たちは、年齢や見た目でITには関心がないだろうとか、もしくは「お年寄り」だからITを使えない、と決めつけてないだろうか?

今回、デンマークと日本のデジタル化で大きく違うと思わされたのは、前提がそもそも違うということだ。デンマークでは、デジタル化はデフォルト(問答無用にやるもの。もちろん福祉国家維持のために必要だからという明確な理由がある)であり、その上で「高齢者(を含めた情報弱者)に使ってもらうにはどうしたらいいか」を考えている。一方で、日本は「高齢者はできない」ということを理由にし、できるかどうか試してみたり、できるための方策を模索することすらしていない

日本には、すでにデジタルを使いこなす正子さんがいらっしゃるのにもかかわらず、聴覚が〜とか視覚が〜などと言い訳を積み重ね、「高齢者だから」という理由がまかり通っている。正子さんとのお話を通して、日本にも高齢者であったとしてもITを使っている人はたくさんいて、その人たちはスーパーマンというよりは、道具の使い方や支援を得る手段を心得ているのだとわかった。高齢者を対象としたデジタル活用の実践者である株式会社MTヘルスケアデザインAging Japanの代表理事の阿久津さんは、「ユーザビリティなどはもちろん足りておらず、今後改善が必要だ。だが、日本で電子化やロボットの導入が進まない理由は、「日本は高齢者はできない」ということを理由にして、現場の人たちが導入しようとしない」からだという。

デンマークのデジタル化の経験から、そして今回の若宮正子さんとの数日でわかったことがある。それは、高齢者はデジタルに対応できるということ。デジタルネイティブとは異なる方法でデジタルを使いこなすことができ、それを支援するための方策がいくらでもあるということだ。その証拠として、デンマークで数多くの「高齢者がITを使うための工夫」が生み出されているし、まだ見つかってない方法も人間の知恵次第で、いくらでもでてきそうだ。

正子さんは、PCもマウスも軽々使いこなす。

『参加型デザイン』

普段、参加型デザインを実践している身として、当事者を巻き込むことの重要性は十分認識していたつもりである。だけれども、単なる1時間のインタビューやヒアリングでもなく、エスノグラフィー的な第三者としてのフィールド観察でもなく、数日の間一緒に時間をかけて行動することで、正子さんの目や考えを通して、気づかされる「デジタルの課題や可能性」が多くあった。どういうことかというと、正子さんの行動や、デンマーク側からの正子さんへの質問とそれに対する正子さんの返答、そして、ふとしたことで投げかけられる正子さんからデンマーク人たちに向けたシンプルな質問が、自分が気づけてなかった切り口がたくさん存在することを明らかにしてくれたのだ。正子さんの視点からのデンマークのデジタル・インクルージョン戦略に関する質問には、私が一人で訪問したのでは聞くことはなかったであろう要項が多々あり、私がいかにステレオタイプな高齢者象を描いていたかを赤裸々にしたともいえる。

今回、他者や他のアクターとのインタラクションによるTalk back の力はもとより、一つの事象を他者の視点を経由し、かつ自分の知識を総動員することで、自分の知識だけでは得られない気づきが生み出されたと思う。

一番初めの訪問先「Faglige Seniorer」ではとても良い対話の時間を過ごした

正子さんとの共創

正子さんは、「高齢者」というカテゴリーにいれてしまうのは申し訳ないほど、エネルギーに溢れていて、積極的で、自分の考えを明確に表現できる聡明な方であると同時に、とても可愛らしい女性だ。同行中に恋バナが始まり、すっかり盛り上がった女子三人。いつになっても若いとは、こういうことを言うんだろうな。

同時に「高齢者」であることには変わりなく、さまざまな身体機能の低下を体験し、多くの高齢者と同様、今後の不安を感じてるのだそうだ。でもそれはネガティブなことばかりではない。だからこそ、気づくこと、考えること、提案できることがある、ということがわかったし、それを経験者でない第三者がシンパシーを感じてその人の気持ちになって提案するといったウルトラCは到底難しいだろうなということも同時に見えてきた。つまり、当事者を巻き込む必要性は確かにあるということだ。正子さんのメッセージの一つがまさにそれで、「もっと私たちの話を聞いてください!」だった。

今回の訪問で、発見したこと、考えたことなど、記録しておきたいことは多々あり、そのうち時間を見つけて報告したいと思う。いつになるかわからないが、気長にお付き合いください。

訪問時は、毎日晴れていた


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