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3. デンマークのグループワークの手引き

文責:安岡美佳・内田真生

はじめに

本記事は連載のうちの一つです。前書き.デンマークのアクティブラーニング1. デンマークの大学とその特徴2.ロスキレ大学PPLとオールボー大学PBLも併せてお読みください!

デンマークの大学や初等教育機関などでも活用されているグループワーク。グループワークは、アクティブラーニングの重要な要素の一つなのですが、グループワークと聞いて、皆さんはどのような活動を思い浮かべるでしょうか。方法は目的やプロジェクトタイプに応じて多々あり、これがグループワークだ!という枠組みを示すのは難しいのですが、一方でデンマークで一般的につかわれている定型も存在します。定型に従ってグループワークをリードしていると、長年の模索から最適な方法が試みられた末に現在の形に落ち着いているということがわかります。ここでは、筆者の一人である安岡が担当するグループワークを採用した授業を事例に、デンマークでどのようにグループワークが進められるのか、具体的に紹介していきます。

グループワークの大きな枠組みは、次の4要素からなります。

要素1.課題発見・課題設定、
要素2.グループ構築とプロジェクト管理、
要素3.ワークの実施(調査・分析・考察を進める)、
要素4.振り返りとしてのプロセスアナリシスの実施

ワークを実施する[3]の部分だけでなく、課題を自分で探し出し[1]、一緒に課題を解決するグループを作り[2]、プロジェクトを実施することが重要です。そのアクティビティ全般を学習者が自身の活動を通じて学ぶ[4]ための題材とするというのが、デンマークで取られているグループワーク手法のミソです。

事例からグループワークを知る

まず、筆者(安岡)が以前担当した14週間にわたるコース「ICT を用いた新規事業やサービスのコンセプト開発」という半年間24回の授業の内訳を見てみたいと思います。本授業は、週に2回2時間のレクチャー13回とグループ指導、グループワークで構成されています。レクチャーでは、理論を学び、グループ指導で指導教官を混ぜた議論を進め、グループワークで実際の課題に対して理論を適応させ、解決策としてのICTやIoTのコンセプトやデモシステムを策定していきます。グループワークの実施によるコンセプト開発(モックアップやデモシステムの構築など)と同時に、最終レポート提出と口頭試問があります。最終レポートは、グループで一本作成しますが、レポートには教科書などの指定資料500ページとそのほか500ページほどの自分で探してきた論文や書籍を読み合計1000ページ程度の文献資料を活用する必要があります。最終的なレポートのボリュームは、グループの構成人数にもよりますが3-50ページ程度です。口頭試問は個別に実施され、レポート点と口頭試問の評価により、最終的な成績が決まります。

要素1. 課題発見・課題設定

全13回のレクチャーのうち、ざっくりですが、約3回分の授業が課題策定に割り当てられています。レクチャー1は導入と授業の全体構成についての概要、レクチャー2はパートナー企業と企業の課題の紹介です。その後レクチャー3でグループを構成し、レクチャー4では、企業の課題観に添いつつ授業の目的に合致する課題発見と課題設定をグループで議論し、対応するべき課題(リサーチクエスチョン)を定義していきます。グループでの議論では、パートナー企業が提示する漠然とした課題をより深く理解し、真の課題はどこにあるかを模索することが欠かせません。この「課題設定」は、グループワークで行うプロジェクトの最終目的・成果、そしてひいては評価につながるため、グループワークを進めていく上での最も大切な要素となります。対応する問題を見つけるというプロセスにかなり長い時間をかけているところに要注目です。

要素2. グループ構築とプロジェクト管理

課題を模索する合間に、グループづくり(レクチャー3)をします。ちなみにデンマークの大学で多く採用されているグループの作り方が何種類かあります。一般的に、めんどくさがって適当に仲良し友達でグループを作らせる場合も多いようですが、例えば、私が担当している授業では、グループをランダムに作成するITアプリを使ったり、Belbin Team rolesCARE profilesといった一般的にも認知されている個人の特性分析の知見を基に、多様性が確保できるようなグループ構成をすることがほとんどです。リーダ的なまとめ役に優れている人もいれば、エクセルシートを使って几帳面に記録をすることが得意な人もいます。個人の特性分析の知見を活用する場合に注意したいのは、一人の人が何か一つの役割に限定されるというよりは、複数の特性を持っている人が多いという点です。最終的に、全体でグループワークに不可欠な特性がカバーされるようにグループを構成することが重要です。個人がそれぞれのスキルのポートフォリオを持ち寄り、全体で一つのグループとして機能するようにグループが構成される必要があります。

1グループのメンバー数も重要です。人数が多過ぎると過度に役割が重複するため、満足する役割を担えないメンバーや他人任せで美味しい所だけを横取りするメンバーが増え、グループ全体のモチベーションを下げるだけでなく、監督者にとっても全員と対峙することが難しくなります。人数が少なすぎると、各メンバーの負荷が増えることで些細な衝突が増えるだけでなく、学際的で多様な課題への取り組みという点で物足りなくなります。このようなグループで起きる衝突を含めた問題を解決することもグループワークの醍醐味ではあるのですが、対象としている課題について学ぶことを優先するために、人数制限をかけることがほとんどです。学習モデルにもよりますが、最大6-8名が理想的とされており、RUCのPPLでは5名程度、AAU式PBLでは、4-8名が理想とされています。

役割が決まってからまずするべきことは、ファーストミーティングの実施です。第一回目のグループ・ミーティングであるファーストミーティングはその後のミーティングやグループワークのクオリティを大きく左右すると言われます。最初のミーティングで標準が作られるので、適当に進めてしまうとその後のミーティングや個別のプロジェクトワークも適当になりがちです。
ファーストミーティングでは、次のようなことを決めます。

* グループでの役割分析
* プロジェクト目的・目標の明確化と共有
* プロジェクトスケジュールの作成
* プロジェクト契約書の作成

前述のBelbin Team rolesCARE profilesを活用することで、グループは様々な役割を担える多様性に富んだメンバーで構築されているはずですが、ここでグループ内で互いの役割を再確認します。その後、要素1で設定した課題に基づいたこのプロジェクトの目的と目標を定めグループで合意します。1つの課題を解決する方法は複数あります。そのため、より具体的に、このプロジェクトとして、どのような手段によって課題を解決していくのか、最終的にどうなったらプロジェクトが成功なのか、どのようなアウトプットにつなげるのかを話し合います。大学のプロジェクトであれば、ある程度目指すべき方向性は決まっている点かもしれませんが、グループメンバーで改めて確認し相互確認することが重要です。次に、どのようにプロジェクトを進めていくか、当初は簡単でもいいので大体のスケジュールを作成します。最終レポート執筆が不可欠なプロジェクトでは、プロジェクト期間最後の1ヶ月半ぐらいはレポートの執筆に充てるなどが考えられます。プロジェクト予定表には、そこから逆算して、期間終了の2ヶ月前には何ができてないといけないかなど、やるべきことを明確化させる効果もあります。

さて、ファーストミーティングの項目の中でも最も大切だと筆者らが考えるのが、プロジェクト契約書の作成です。やる気に満ち溢れたプロジェクト初期段階に、いくつかの約束事をグループ内で確認する一つの方法論で、学生たちはワードなどで作成しています。プロジェクト契約書に書かれるべき重要な項目を次に上げます。

文書・データ・進捗管理方法: クラウドサービスGoogle DriveDrop box, TrelloGithubなどをどのように活用し管理するかを決めます。グループワークでは、全ての参加者がすべてのデータに同様にアクセスできることが重要です。データの集積場所を確定しておくことは、後から「みてなかった」「知らなかった」「貰ってなかった」などの議論を引き起こさないためにも重要です。

学習の進め方:スケジュールを作成しながら、役割やタスクの分担方法や記録者などの選定、どのように参考文献を集めていくか、どのようにプロジェクトを進めていくかを確認します。デンマークでは、Trelloのような進捗管理・カンバン・オンラインツールの活用が一般的になりつつあります。グループワークは、それぞれのメンバーの学習の進め方の違いに配慮する必要があります。ラストスパートに長けた人がいる一方で、毎日コツコツ進めるのが得意な人もいます。毎日コツコツ型は、ラストスパートで2日間連続徹夜は苦手かもしれません。どのように進めるのであれ、グループ内での合意が不可欠です。

欠席した時、提出しなかった時などのペナルティ:グループワークで必ず問題になるのがフリーライダーの存在です。一人が欠けると他のメンバーの成績やアウトプットにも影響が出てくるため、少数の人に負担ができる限り寄らないようにという配慮です。私の担当していたグループでは、「1回遅刻をしたら、グループワーク時にお菓子の差し入れをする」、「3回の遅刻で皆にランチをおごる」などの取り決めがされていました。

目指すゴールの合意:単位取得ができれば良いのか、成績Aを目指すかで、プロジェクトへの取り組みの姿勢が変わってきます。まず、グループ構成の段階で確認が重要ですが、契約書作成時に、改めてどのあたりを目指したいのか合意しておく必要があります。

要素3. ワークの実施

グループが構成されると、その後はしばらく授業と個別プロジェクトワークが続きます。授業で提供されるトピックに合わせる形で、グループのプロジェクトワークが進められるのが理想的です。例えば、授業でフィールドワークの手法や理論が展開された時期にフィールド調査を実施する、データベースを学んだ時にパートナー企業のデータを用いたデータベースの構築を行うなどです。

大学の授業では、はじめに理論を学ぶ必要があるので、レクチャーが初期に集中講義的に組まれ、後半グループワークの比重を大きくすることが多いようです。最後の1ヶ月ほどは、授業はなくグループワークが中心になる構成がRUCでもAAUでも、またそのほかのグループワークを取り入れている授業でよくみられます。そのため、特に後半はグループワークにおける監督者(スーパバイザー)の役割がより重要になっていきます。大学などのプロジェクトとして実施する場合は指導教官が管理と介入の役割を果たしますが、具体的には監督者の役割としては、次のようなものが考えられます。

* 定期的(週1や隔週)な進捗報告
* マイルストーン設定のアドバイス
* 参考文献の提示
* 的確なアドバイスの提供
* 振り返りを引き起こさせるようなフィードバックと適切な質問を投げかける

特に最後の質問を投げかける役割は特に重要だと言われます。つまり、指導教官が考える「正しい回答をチームに教える」のではなく、グループのメンバーに自分で考えさせるための質問を投げかけるということです。良い振り返りができるように適切な質問をする、ということは必ずしも簡単なことではないのですが、ここが良い監督者の腕の見せ所なのでしょう。前章「2.ロスキレ大学のPPLとオルボー大学のPBL」でも述べましたが、アクティブラーニングでは、監督者はグループのメンバーの一人という位置付けです。学生の学習と同時に、監督者も、専門家として、また振り返りを促す役割を担う立場として、常に学び続ける必要があります。

ちなみに、大学という性質上、「評価」はする側もされる側も両者にとって一大イベントです。もちろん社会人にとっても同様で、プロジェクトの結果はその後の社内での立場を決めることになりかねません。この評価は最大のフィードバック、そして質問大会とも言えます。監督者の役割として、グループワーク開始前に、評価の基準とその方法を明確にグループメンバーに伝えることは必須です。どんな成果物が必要なのか、どのようなスケジュールを立てればよいのかといった、要素2で行われるファーストミーティングの決定事項に大きな影響を与えます。また、試験の方法も「口頭試問」にも個人、グループ、両方といった複数パターンがあるため、早い段階で伝えておくことが大切です。

蛇足になりますが、事例の授業では、レポート提出数週間前に、各チームのコンセプトピッチと最後の授業が実施されます。コンセプトピッチは、パートナー企業を招聘しコメントをもらう機会となり、ラストスパート前に実施されるコンセプトの調整が行われます。最後のレクチャーでは、ピッチの方法論やレポートの細かい事務的な連絡が中心になります。ピッチと最後の授業の終了後、グループワークでレポートを総まとめし、レポートの提出があり、約半月後に口頭試問が実施され1講義が終了します。

要素4. 振り返りとしてのプロセスアナリシス

アクティブラーニングにおけるグループワーク最後のステップは、「振り返り」です。自分が何を感じどう次に活かせるのか、それを言葉で外在化し振り返ることが、「振り返り(リフレクション)」です。「振り返り」が重視されるのは、学んだとされることを次の学びに活かすため、自分の言葉で自分のプロジェクトの意味や目的・結果を語る・表現することで、「学べた」と言えると考えるからです。振り返りでは、グループワークのメイントピック(科目など)の理解を振り返ることも大切ですが、チームとして何を学んだか、プロジェクトを実施するプロセスで何を学んだか、というプロジェクト全般を振り返ることが求められます。

前述のように、大学のプロジェクトでは、レポートを書く、口頭試問で受け答えをするということがプログラムに含まれていますので、意識的にというよりは義務として「振り返り」をすることになることが多いように思えます。一方で、社会におけるプロジェクトワークでは、教育機関で提供されるようなテストはありません。だからこそ、何をプロジェクトから学べるか・学んだかを、意識的に振り返ることが重要です。これが、最終プロセス「振り返りとしてのプロセスアナリシスの実施」です。

プロセスアナリシスは「グループポートフォリオ」としてレポート形式でまとめます。個人と同時にグループでの振り返りを行います。どのようにプロジェクトを進めていったのか、その結果グループとしてどう結論を出せたのか、個人的にどのように振り返りを行ったのか、全てを終えてこのグループで何を学べたのか、といった要素を記載していきます。振り返りを意識的に行うために「なぜ、このグループポートフォリオを書くのか?」というプロセスアナリシスの目的から始まり、全部で5つの要素を入れます。

1. 目的:なぜこのポートフォリオを書くのか?
2. 説明 What:このプロジェクトで、何をしたのか?
3. 評価 How:(Whatについて)どのように行ったのか?何が上手く行って、何が上手く行かなかったのか?
4. 解析 Why:(Howについて)なぜ、それが起こったのか?なぜ上手く行ったのか?なぜ上手く行かなかったのか?
5. 統合 What (to do next):次のプロジェクトに向けて、今回のグループワークの経験を3つの視点からまとめます。
* はじめる:次のグループワークでもはじめる「良い活動内容・グループとしてのふるまい」
* やめる:次のグループワークでは止める「悪い経験」
* つづける:=次のグルプワークでも続ける「良い経験」

評価・解析・統合について、メンバー毎に振り返りを行った結果を共有し、グループとして再度まとめると、グループとしての振り返りになります。個人とグループ両者の振り返りの結果を記録として残すことで、別の時に改めて読み返せますし、それにより更なる振り返りを行なえるという特典がついてきます。要素3.ワークの実施でも述べましたが、振り返りを行うために、定期的なフィードバック適切な質問は必須です。最後のステップまで、監督者が継続してこれらを行うと共に、学習者同士が相互にフィードバックを行うことも大切です。

次は、4.オンライングループワークの手引きです。リモートワークやリモート学習でも、アクティブラーニングは生きる!そんなお話をしたいと思います。

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