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願いは叶う 思いは届く #蜜蜂と遠雷

ギフト。
皆さんに、風間塵をお贈りする。

あのとき出会ったから
あのとき出会わなければ
あのとき出会っていたからこそ

運とご縁とタイミング。

今までの人生を振り返ってみて分岐点と呼べる出会いがいくつかある。
出会うべくして出会った必然ということばでしか表すことのできない出会いも経験した。

そのひとつが「蜜蜂と遠雷」との出会いである。

私には尊敬する歌い手がいる。

出会って15年。その人はもう同じぐらい本番の舞台にたっていない。
体調を悪くして、それと同時に何か凄く嫌なことがあって、歌うのをやめてしまった。

「この世の中にはどうにもならないことがあるんですよ」

先生にとって歌ってなんですか?

「…そうねぇ、ちょっと前までは生きがいだったわね」


生きがいをやめるとはどれほどのことだろう。
こんなに悲しいことばを私は知らない。

音楽のかみさまに愛された人。
授業で聴いた先生の声はこの世のものとは思えなかった。まるで重力が無いかのように響き渡る声。ふわりと風に舞う羽のような、天空からきらきらと光の粒が降ってくるような、湖面に静かに広がってゆく波紋のような。
この世の天国があるとしたら、今、この歌声が流れているこの場所だと思った。

だから絶対歌ったほうがいい
歌ってもらいたい
歌いたいはずだ

弾きたい。風間塵のように。

その一心で気持ちをばーんとぶつけた。

弾きたい。かつての私のように。

ぶつけてしまった。


私がいくらそう伝えても決めるのはその人自身だ。
若気の至りで突き進み、見事玉砕した私にうたの師匠はこう言った。

「人は変えられない。変えられるのは自分自身だけ。あなたは歌い続けて、その人にあなたの歌う姿を見せ続けなさい」

当時私は19歳、実力も経験も実績もなにもない。かたや相手は何十年も歌ってきて、歌でお金を稼ぎ大学で教えている。
だったら自分が成長するしかない。今は思いと情熱しか持っていなくても、うまくなろう、たくさん舞台に立とう、歌い続けようと決めた。

そうしたら、いつか相手に変化が訪れるかもしれない。

私は先生の門下生ではなかった。
歌声を聴いてもらえるのも前期と後期の実技試験のときのみ。
先生と関われるのは卒業までの限られた時間だった。

毎週レッスン室にわざわざ会いに行き、元気ですか?歌ってください!と言ってみたり、物理的な距離を詰めすぎて怒られたり、ときには言葉が過ぎてケンカをしたり。先生が放つ空気は初めは頑なだったが、しつこく続けてたらあきらめたのか慣れたのか、一緒にいて自然な雰囲気を出してくれるようになった。

私の歌う姿を見せ続ける
私が今まで歌ってきた理由のひとつだ。


私には尊敬する歌い手がいる。
出会って15年。
その人はもう同じぐらい本番の舞台にたっていなかった。

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直木賞と本屋大賞をW受賞。
ピアノコンクールを扱った小説。

六番目の小夜子のドラマを見て小説を買って以来、恩田陸のファンだった私が手に取らないはずのない作品だった。ましてや自分が学んできた“音楽”を扱ってるともなれば。
話題になった当時は幾度も目にしたのだが、なぜか購入しなかった。
結局手に取ったのは2017年10月。出産のため里帰りをし、午前中は浜を散歩、それ以外の時間はやることもなく、突然ふってわいた自由時間を持て余している産休中だった。


母の死をきっかけに音楽を失った栄伝亜夜が、音楽を取り戻す物語。
眠ることも忘れ夢中でページをめくった。気づいたら涙と鼻水がだらだら垂れていた。

ずっと歌ってほしい人がいた。
私が歌うより、その人が歌う方がよっぽどいいだろうと思っていた。
素晴らしい声を持っているのになぜ歌わないのか怒りにも似た気持ちを持っていた。
あなたは音楽のかみさまに愛された人なのに。

10年来の思いが叶った日の光景が、物語を読み進めるたびによみがえってきた。
だってこれを読むつい3日前のことだったんだもの。復活コンサート。
そうか、この日のために、今このタイミングで読む本だったのか。
全ては必然。

先生と栄伝亜夜が重なった。


ギフト。
皆さんに、風間塵をお贈りする。

マサルが亜夜と出会わなければピアノを弾いていなかったかもしれない。
亜夜との出会いは明石をスタートラインに立たせた。
塵と出会わなければ亜夜はきっと戻ってこなかった。
それぞれが、それぞれのギフトだったんだろう。

出会うべくして出会う。

ふと、私は先生のギフトになれたんだろうかという考えが頭をかすめた。が、慌ててそれをふりはらった。
そんなたいそうなものにはなれなくていい。
先生の人生のほんの数ページに関わらせてもらっただけで私は満足だ。


蜂蜜と遠雷を読んで確信を持って言えるのは、ただひとつ。

先生との出会いは私にとってギフトでした。


****************

本当は昨年の秋にこれを書くつもりでいました。

蜜蜂と遠雷を手に取り、大袈裟ではなく号泣しながら読みました。
そのときの思いをことばにして残しておきたかったのです。
物語を届けてくださった作者の恩田陸さま、幻冬舎の皆さま、関わった全ての皆さま、ありがとうございました。このお話が読めて幸せでした。

読書感想文を書くにあたり、下記noteを書き直しました。

世界に溢れる音楽に感謝を。
出会いに感謝を。


#読書の秋2020 #蜜蜂と遠雷

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