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介護を最低賃金の仕事にしないために

最低賃金(時給)が全国平均で31円引き上げられることが決まりました。
憲法で定められている最低限の生活を維持するために、物価の上昇に合わせて、最低賃金を上げる必要があるからです。
また、最低賃金を定めることによって、雇用主が不当に安い賃金で雇用することを防ぎ、いわゆる立場の弱い人たちの労働力が搾取されないようにする役割もあります。

最低賃金の改定は毎年行われています。
千葉県の最低賃金の推移は以下のとおり。
2012年 756円
2013年 777円
2014年 798円
2015年 817円
2016年 842円
2017年 868円
2018年 895円
2019年 923円
2020年 925円
2021年 953円

都道府県ごとの今年(2022)の最低賃金はこれから発表になりますが、単純に全国平均の上昇額を適応するなら984円(+31円)となります。

毎年3%前後の上昇といわれてもピンときませんが、10年間で時給が200円UPと聞けば、ウヒョー!ってなりますよね。

でも、あなたの時給はこの10年で200円上がっていますか?
(常勤の場合時給200円×月間160時間で=32000円/月 ※手当や昇級による上昇を除く)
おそらく、そこまでは上がっていないという人が多いのではないでしょうか。

なぜなら、最低賃金近くで働く人はそんなに多くないからです。
見直されるのは最低賃金であり、それを上回る人の給与に直接的に連動するものではありません。

10年前、時給950円のアルバイトといえば、“悪くない”金額でした。最低賃金の1.25倍です。
たとえばその後、毎年10円ずつ昇給して10年で1050円になったとします。去年の最低賃金は953円ですから、最低賃金との差は1.1倍。毎年昇給しているにもかかわらず、この人の賃金は最低賃金にどんどん迫られています。

昨年の記事ですが、最低賃金近くで働く人の割合はこの10年で倍増しているそうです。

労働者の視点で見れば、「最低賃金が上がっているのだから、全体の賃金も同じ割合で引き上げればいいじゃないか」と考えることでしょう。
しかし、経営者からすると「全員の賃金を上げたいが、会社の収入がそこまで増えていない」という実情があります。

お父さん、お母さんの給料が増えないのに、子どものお小遣いだけ自動的に増えていくようなものです。

どんな会社にも「売上」があり、賃金はそこから支払われます。つまり賃金を上げたくても「売上」が上がっていなければ賃金を上げるための原資が足りなくなります。

ご存じのとおり日本は長らく低成長が続いています。
経営者は努力しているものの、なかなか業績が好転しません。
介護業界も同じです。
民間企業だけでなく、社会福祉法人であっても経営が立ち行かなくなるケースが増えています。

賃金を上げるには売上を上げる。
賃金を上げるには健全な経営(生産性の向上)が不可欠です。

介護は専門性の高い仕事であり、決して最低賃金近くでできる仕事ではないと思います。
しかし、健全な経営ができていなければ、最低賃金の上昇に追いつかず、介護職の賃金が最低賃金に吸収されてしまいます。

経営者からは、「介護報酬が上がらないのに賃金だけ上げるなんて不可能だ」という声も聞こえます。
本当でしょうか?

派遣職員を依頼するための手数料、紹介会社への紹介料、手書きの記録や転記のための労働時間…探せばまだ社員の賃金に回すお金を生み出せる小槌があるのではないでしょうか。
また保険サービスだけでなく、高所得者向けの自費サービスで売上を上げるという手もあります。
経営は泥くさい工夫と改善の連続です。

「不可能」と思考停止に陥らずに、介護職の賃金を上げるために何かできることはないかと考え続けることが大切です。

介護職の賃金を、最低賃金上昇率以上に上げるには…

介護職は売上や生産性を否定しない方がいいし、
経営者は介護保険収入には上限があり、支出はこれ以上下げられないという思考停止に陥らない方がいいでしょう。

めでたしめでたし

立崎直樹

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