<後編>CM制作ワークショップ「えいぞうの教室」ができるまで。
ひたすら“考える”時間が、島の高校生たちにもたらしたもの。
自分たちの通う学校の良いところってなんだろうーー。
高校生たちが、自らが暮らす地域や日々の学校生活を見つめ直し、その魅力を掘り起こして30秒のCMを制作したワークショップが「えいぞうの教室」。2022年6月~11月に、愛媛県立今治西高等学校 伯方分校で選択制授業カリキュラムの一環として全9回にわたって行われ、3本のCMが出来上がった。
映像制作プロダクションAOI Pro.が率いた今回のプロジェクトは、生徒や学校たちにどのような変化や影響をもたらしたのだろうか。後編の今回は、伯方分校で「総合的な探究授業」を担当し、生徒たちをそばで見守った伯方分校の林先生と、青野先生に話を聞いた。
<前編はこちらから>
新しい取り組みだからこそ、ハードルも高い。
――まずは、「えいぞうの教室」という取り組みについて初めて聞いた時、どのように感じられましたか?
林先生 率直に感じたのが、ハードルが高そうだなということでした。映像を作るとなると機材も多く扱うし、そもそも私たち教員もやったことのないことなので、指導することもできない。不安でもあったし、どうなるのかなというのが正直なところでした。
青野先生 私も同じで、難しそうだなというのが第一印象でした。でも生徒たちに今回の映像授業の話をしたときに、「すっごく面白そう!」「楽しそう」という声があちこちから聞こえてきたことは印象に残っています。
――お2人とも不安が大きかったということですが、具体的にはどのような点が懸念だったのでしょうか。
林先生 AOI Pro.チームとお話ししていく中で、技術的な部分は全部担っていただけるということで安心したんですが、特に不安だったのは、CMという形で“表現”をする上で、AOI Pro.の皆さんが生徒たちにきちんと意図を伝えて彼らの意見を引き出せるかどうかという点でした。というのも、日頃の授業で「自分の考えを言ってごらん」と促しても、うまく喋ることができない生徒も多くいます。CM作りというより難しいお題ならなおさらだろうなと。引き出すことに苦労されるのではないかなと感じていました。
――なるほど。一方で、授業を率いるAOI Pro.チームにリクエストしたことはあったんでしょうか?
林先生 せっかくCMを作るなら、学校のPRになるようなものにしてほしいとお願いしました。伯方分校は生徒数が年々減っていて、存続の危機を迎えています。進学を控える中学生やその保護者に対して学校の魅力をアピールする時には、大人があれこれ話すことよりも、実際そこに通う生徒がどういうふうに感じて過ごしてるかのほうがよっぽど意味がありますよね。だから今回の授業を通して実際に良いCMができたら、伯方分校の学校紹介の場で流したいと。それを念頭において作ってほしいとお願いしました。
生徒たちの意見を促すのは、“粘り強く待つ”姿勢。
――授業が始まって、印象的だったことはありますか?
林先生 AOI Pro.チームの皆さんが、苦労しながらも、生徒たちに自分の言葉で語らせようとしてくれるのが印象的でしたね。足りない部分を掘り下げながら、彼らの性質を理解して対応してくれたので、当初抱いていた不安も少しずつ取り除かれていきました。
青野先生 生徒たちも、授業が進むにつれて自分の意見を活発に言うように変化していったなと思います。班ごとに話していても、ああでもないこうでもないと、活発に議論をするようになって。その姿勢には成長を感じましたね。
林先生 私たち教員も、授業で生徒が答えに詰まると、じれったくなってある程度すると答えを誘導してしまうんですよね。でも、AOI Pro.の皆さんは彼らの言葉を相当粘り強く待っているなというのが印象的でした。もちろん、明確に答えがある普段の授業とは方向性が違うものですが、私自身、生徒が真剣に考えるまでのステップをちょっと省略して簡単なように仕向けてしまってるとこがあるなと、反省すると共に勉強になりましたね。
――青野先生はいかがでしたか?
青野先生 私は普段音楽の授業を担当していることもあり、編集作業の中でバックミュージックを決める時のことが印象に残っています。AOI Pro.の皆さんの方で、曲の選択肢をいくつも用意してくださっていたんですが、「これはちょっと違うね」「これも明るすぎるから違うな」と結構こだわっていて。普段の授業でそんなに音楽について考えている姿を見たことがなかったので(笑)、その真剣さに驚きました。一方で、生徒たちの「違う」という言葉にも、AOI Pro.チームは「じゃあこれはどう?」と次々提案して、生徒が納得するまで長く付き合ってくださいました。先ほどの林先生の話と同様、普通ならじれったくなってしまうものなのですが、時間と労力を惜しまないところが印象に残ってます。
――一方で、授業の進め方について課題に感じる点はありましたか?
林先生 例えば、アイデアを映像化する段階などで、生徒に配布するワークシートがあると、もう少し考えやすかったのかなと思いますね。白紙の紙に書くだけだと自分の考えをうまくまとめきれない生徒もいたので。
――考えるための補助線になるような資料でしょうか。
林先生 そうですね。まずはこれを考えてみよう、次は何を考えよう、というプロセスがチャート図ではないですが、何か型が決まっていた方が取り組みやすいかなと思いました。もちろん、表現を画一化することにも繋がってしまう可能性があるので、難しい点だと思うのですが。
映像として形に残ることが、生徒たちの自信に。
――ありがとうございます。出来上がったCMは、今治市長をはじめとする市の職員や校長先生、そしてメディアも含む大勢の大人たちの前で、生徒たち自らプレゼンテーションされたそうですね。その日はどんな様子でしたか?
青野先生 あんなに大勢いらっしゃると思ってなくて。予想外でした。生徒たちもさぞ緊張してしまうのではないかと思ったのですが、しっかり話していたのが印象的でした。
林先生 人前で喋ることが苦手だった子が、こういう意図で作りましたというのを、メモの丸暗記ではなく、自分の言葉で頑張って喋っていたのは、感動しましたね。
――生徒たちの成長が垣間見えますね。改めて、「えいぞうの教室」を振り返ってみてのご感想をお伺いできますでしょうか。
青野先生 外部の方に来ていただいたことで、私たち教員も生徒も大きな刺激をいただいて、取り組み自体は成功したんじゃないかなと感じています。映像制作という仕事について知ることができただけでも、視野がぐっと広がりますよね。もちろん外部から来ていただくためには日程調整やスタッフの確保など、難しいところも多々あると思うのですが、日頃外部との接点が離島の小さい町である分、生徒たちには貴重な時間になったなと改めて感じました。
林先生 自分たちが拙いながらも表現したかったことをAOI Pro.チームがうまく映像化してくれたことによって、生徒たちには大きな自信になったのではないかなと思いますね。実際に近隣の中学校にもCMを見せに行ったんです。するとやっぱり、私から「伯方分校は少人数で素朴で楽しいですよ」なんて言わなくても、魅力が伝わる。「中学生たちが相当一生懸命見てくれたよ」と伝えると、生徒たちも嬉しそうにしていました。取り組みが授業だけで完結せずに、実際に役に立ってることも良かったかなと。当校でも「えいぞうの教室」を継続的していけるのであれば、生徒たちにとっては非常に有意義な経験になるなと思います。
参加生徒のアンケート結果抜粋
――「えいぞうの教室」は、2023年度も同校で開講予定です。
(取材・構成 福島絵美)
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