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村上春樹さんも愛したライオン「ナナ」さんの今

コロナ禍の夏、1頭で暮らすめすのライオンに会いに行きました。

長野県にある小諸市動物園の「ナナ」さんです。

野生では寿命は15年ていどと言われ、18歳のナナさんは高齢のライオンです。

新型コロナウイルスの影響で小諸市動物園もしばらく休園し、お客さんは激減。夏に猛暑が襲いました。

そして今年は、高齢のライオンにとって厳しい年でもあります。

1月に京都市動物園の「ナイル」(おす)が25歳で、7月には池田動物園(岡山市)の「モジロー」(おす)が20歳で天国へと旅立ちました。二頭とも園を代表する人気者でした。



ナナさんはどうしているのだろう。




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動物園をたずねると、ナナさんは園の1番奥にある屋外展示室にいました。

美しいおばあちゃんライオン。ひっそりとしていますが、強烈な存在感を放っています。

お気に入りの丸太で作られた台にたたずみ、地べたに移動してはごろん(冷たいから気持ちいいのかな?)として、ゆっくりと目を閉じていきます。

肉球を見せて寝ていることが多い、高齢のライオン。でも、サバンナの王の威厳は持ち続けていました。

ライオンは縄張りを示すための遠吠えをします。

ナナさんの遠吠えは、動物園という枠を越え、小諸という城下町そのものを守るようでした。

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小諸市動物園は1926(大正15)年、小諸城の跡地に懐古園と共に開園した「お城の動物園」です。規模は小さいですが、全国で5番目に古い歴史があります。

現在は小型の動物を中心に約50種を飼育。トラやゾウ、チンパンジー がいた時代もありましたが、今は大型動物はナナさんだけになっています。

ナナさんは2004年11月に、4代目ライオンとしておすの「カイ」と共に東京・多摩動物公園からやって来ました。この年の1月にめす「沢子」が死に、市民から「ライオンがまた見たい」と導入の要望があったといいます。

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2014年にカイが病死してから、ナナさんは1頭だけで暮らしてきました。

園のアイドルとして愛される一方、17年2月、全国で大きなニュースになったことを覚えている人もいるかもしれません。

職員が寝室から屋外展示場に出そうと、ライオン舎の扉を開けたとき、ナナさんはスタッフ通路に入ってきて大けがを負わせました。

園は臨時休園し、事故は「人為的なミス」だったと発表。ライオンの飼育の手順を徹底し、事故から2か月後に動物園を再開しました。

処分はやめてほしいーー。こんな電話が園に相次いだそうです。

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そのナナさんは事故の前の16年に子宮内膜症を発症し、体調不良に陥ることが多くなっていきます。

病気により展示を中止し、危篤状態になった時期もありました。飼育員や獣医師がよりそって治療を続け、ナナさんは今は元気を取り戻しています。

動物園では治療だけでなく、限られた空間でナナさんの暮らしが少しでも充実するように工夫をこらします。

放飼場では草食動物のふんをまいて野生のライオンと同じような刺激を与えたり、えさの肉を分けて置いて自然な動きを引き出そうとしたり。

小諸でのライオンの展示は、ナナさんで最後になる可能性が高いようです。

展示施設の老朽化は深刻で、多くは昭和30~40年代にできたものです。

市は、再整備のための基本計画を策定。今年1月にウェブサイトで公表しました。

「ふれあい」や「身近な里山の動物」を重視した園として再生し、ライオンは「案」としてナナさん以降の展示をやめる方向で検討しています(下記は小諸市動物園再整備基本計画より)。

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作家の村上春樹さんは、2015年に期間限定で開き、後に書籍化されたウェブサイト「村上さんのところ」でナナさんのことを取り上げました。

「僕は人生に寂しくなると、長野の小諸市動物園の雌ライオン、ななちゃんのことを思い出します」

村上さんは、ナナさんの前で長い時間を過ごし、小諸に1頭でいるライオンのことに思いを寄せたそうです。


コロナ、猛暑、あいつぐ高齢ライオンの死。

小諸市のアイドル、ナナさんは残暑の今も歴史のある長野の城下町で、ゆっくりと余生を過ごしています。

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