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【ショートショート】犬

ちかごろタカシはよく眠る。

タカシとは、商店街の路地裏で出会った。
カレー屋の室外機の下。もうすぐ雨が降りそうな夕方のことであった。

出会った頃、彼はひどく寂しそうであった。
とくに悲しい様子をみせるわけではない。ただ、笑わないのだ。
たくさん遊んであげよう。そう思った。そう思っていた。
いつしか、タカシと遊ぶのを心待ちにしているのは僕の方だった。

やがてタカシも、少し笑うようになった。僕らはチクチクする芝生の上で転げ回る。一方通行のフリスビーも、日が暮れるまで夢中になった。投げて取る、投げて取る。

そんなタカシが、ちかごろよく眠る。疲れているのかもしれない。一緒に年をとっている僕としても、その気持が分からないでもない。

僕には、秘密がある。まだタカシに伝えられずにいること。
おそらく僕は、もうすぐ死んでしまうだろう。タカシよりも先に。

タカシのそばに擦り寄る。いつだってここは温かい。
タカシ、僕がいなくなっても大丈夫だろうか。
人間はいつも死をおそれているという。不思議だ。
僕にとっては、この温かさがずっと続くみたいな気持ちなのに。

息子がグレて「こんな家、出てってやるよババァ」と言ったあと、「何言ってもいいが大学にだけは行っておけ」と送り出し、旅立つその日に「これ持っていけ」と渡します。