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八首抄

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八首抄 令和5年10月号

八首抄 令和5年10月号

山口 美加代 選
四十七歳の娘はRXセブンにて走りぬけしか彼岸までをも
井手 彩朕子

八月の思い出は濃し母子四人敗戦引揚げ無蓋車の揺れ
上村 理恵子

激烈に舌にしびるるサイダーを立ちて飲み干す咲く鳳仙花
臼井 良夫

ラフマニノフピアノ協奏曲第2 昼の炎暑を耐へし夜の贅
高田 香澄

こうやって生まれてきたのか プールから小さき人を抱き上げる時
渡邊 富紀子

燃えあがれ陽に向かい咲く

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八首抄 令和5年9月号

八首抄 令和5年9月号

井手 彩朕子 選
歌一首なりたる朝の道々にドーナッ二つ買ってゆこう
山口 美加代

水の面は人の声にも揺れている秘密を抱える少女のように
高田 好

薄ごろもまとへる人の多くなり老の施設も夏は華やぐ
広瀬 美智子

わが胸の欠けたるピース無きままに花もて埋めん梅雨に咲く花
三上 眞知子

ぽつかりとぽかりと浮ける夕暮れの雲に置きゆく思ひの片
山北 悦子

祖父の家更地となれるを尋ね行き愛されたはず

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八首抄  令和5年8月号

八首抄 令和5年8月号

青山 良子 選
休戦が今すぐそこにあるやうな昼月が浮く菜の花畑
臼井 良夫

独り子でありし淋しさえんえんと九十歳を越えても続く
広瀬 美智子

ゆっくりと空に溶けゆく夕焼けを弱視の吾の心に刻む
児玉 南海子

ストーブを二台焚いても動かない私のからだに猫が添い寝す
菊池 啓子

小綬鶏のちょっと来いの声姿見せず呼ぶだけの鳥一度見てみたい
北岡 礼子

庭隅にひっそりと咲くオダマキの花は恥じらう風

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八首抄  令和5年7月号

八首抄 令和5年7月号

佐田 公子 選
クレマチスの咲くに遅速の序列あり白、紺、ピンク趣こぼす
橋本 俊明

真先に告げたき人のおらぬこと母の水替え兄の水替える
児玉 南海子

軒下に吊られ揺れいる白きシャツ風になりたき私のように
高田 好

何よりも普通なること一番とわが書きながら少しさみしき
藤峰 タケ子

いたらなき娘を嫁がせる思ひして投稿の歌ポストにためらふ
谷脇 恵子

ふりむけば誰もいない春の風とうとう一人に

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八首抄  令和5年6月号

八首抄 令和5年6月号

渡辺 茂子 選
ひとひらの雲のゆくえに我が心預けておりぬ梅の香のなか
奥井 満由美

彩の絹莢二莢さみどりの口に弾けてああ春憐
毛呂 幸

ゆっくりと桜の下を歩きたり待っているよと蕾にエール
浦山 増二

尾根からの水を含みし雪片が時間差つけて春を呼び込む
藤田 直樹

早春の梅のさ枝に蕾着く音符のごとく春を奏でる
伊関 正太郎

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八首抄  令和5年5月号

八首抄 令和5年5月号

橋本 俊明 選
AIの機能搭載したようなピカピカオデコの美誠ちゃんが好き
高橋美香子

光さす天窓のある台所 菜を刻む音 母の 後姿
高田 好

パソコンのゲームにはパッパと反応す異次元めける孫の指先
成田 ヱツ子

年々に義理を欠くことの増しゆくと時世に合はす戸閉りもする
渡辺 千歳

道ならぬ道と知りつつ知ればこそむべわが園にかをる柏木
石谷 流花

寒き朝枝に刺したるみかん喰む鵯のせはしき陽

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八首抄  令和5年4月号

八首抄 令和5年4月号

水谷 和枝 選
友の弾くギターに合わせ歌いたり心を開き空に向かいて
藤田 直樹

蕭々として走りゆく雪原の風は帰りの道を知らない
臼井 良夫

カルテにて誕生日と知る看護師の祝ひの言葉にこころはなやぐ
斎藤 叡子

寒卵わりて小鉢にうつし見る囲いの中で終えし鶏
才藤 榮子

子にはこの親には親の思いあり飛行機雲の続く初空
高橋 美香子

原点を探すがごとくゆっくりと私はコーヒーいつもブラック
田中

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八首抄  令和5年3月号

八首抄 令和5年3月号

臼井 良夫 選
わが影を見ながら歩く夕刻に存在の無き悲しみを知る
藤田 直樹

道の上より見ればわが家の瓦の屋根が輝り返しをり
川口 六朗

暮れなずむ稜線続く房総のローマと同じ色の夕焼け
高橋 美香子

どの人も眼は美しと思ひつつマスクの顔に対きて物言ふ
広瀬 美智子

放浪の人もやうやく老いづきて残るいのちをわが傍におく
高田 香澄

天空の薄き空気を思いつつまぶたに描くマチュピチュ遺跡
建部

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八首抄  令和5年2月号

八首抄 令和5年2月号

広瀬 美智子 選
お墓には行けないけれどこの庭のさまざまな菊をすべてあなたに
高田 香澄

今年もまた着たら捨てよう繰り返し黒きセーターはクッションになる
篠原 和子

天空よりぶら下がるごと動かざるブランコに降る落ち葉しきりに
山北 悦子

おふくろと呼ばれる友はゆっくりとふり向く時におふくろの顔
児玉 南海子

運休の内陸線の駅舎あり玩具箱からこぼれたように
永田 賢之助

スメタナの祖国

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八首抄  令和5年1月号

八首抄 令和5年1月号

高貝 次郎 選
今日の君取り分け話が合うようで崩したる脚組みかえしたり
財前 順士

湯にひたるあなたの背は若いねと言葉に出して言へばよかつた
高田 香澄

十四号台風明けの庭に立ち「木守柿」とふ言葉にあそぶ
井手 彩朕子

尖塔のクルスは秋の光受け世のなべてもを清めむとする
佐田 公子

姉からの電話も消えて十五年空の青さを今日も見上げる
臼井 良夫

地蔵堂に群がる蟻の動きとはカオスに似たる秩

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