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【観劇】音楽劇「浅草キッド」(明治座2023年)

都内の昼と夜の寒暖差を心配しつつ
明治座へビートたけしさん原作、話題の音楽劇「浅草キッド」を観てきました。
10/8よりスタートした舞台。私は10/12、10/13の二日間を観劇しました。

感染症はまだ無くなったわけではありませんが
街には少しずつ以前の活気が戻ってきました。
各業界、エンタテインメント界もまたこのような日を待っていたと思います。
出演者がマスクなしで声を出し、踊り、笑い、セリフを言う「音楽劇」がまた観られるなんて…嬉しいですね。

〈ストーリー〉

脚本・演出は福原充則さん、
音楽・音楽監督に益田トッシュさん

出演は
北野武役に林遣都さん、武の師匠・深見千三郎役を山本耕史さん、芸人仲間に
松下優也さん、今野浩喜さん、稲葉友さん、ダンサーに紺野まひるさん、そしてフランス座支配人の妻にあめくみちこさん、他…というキャストでした。

物語は(「浅草キッド」は数多く映画化、ドラマ化されているので多くの方がご存知かもしれませんが)

主人公、北野武は大学を中退し何をしたいのかわからないまま、浅草の街を彷徨っていた。就職しないまま金にも困り、やがて流れ着いたストリップ小屋・フランス座で働くことになる。そこでステージの責任者である深見千三郎の芸を見ているうちに「目覚め」た武は師匠に弟子入りし芸人仲間と苦楽を共にしながら修行し、力強く生きてゆくストリッパーや浅草の人々にもまれながら成長してゆく。
やがてテレビの時代になりフランス座でコントができなくなり、ひとりの芸人として生きる覚悟を決めた武は師匠の元を離れ、求められる笑いの変化に苦しみながらもいつしか認められるようになってゆく。そんな武を世間から忘れられようとしていた深見は見守っていて…というものでした。

〈昭和の色〉

舞台オープニングはバンド演奏にのってシックに始まり、
やがて人情溢れる浅草を表現した歌、喜怒哀楽の歌詞、ダンスと賑やに展開していきます。
特に武の師匠、早見千三郎の半生を振り返る場面のステージ展開は素晴らしく、山本さんの芸人っぷりがイケてましたね〜笑。
タップはもちろん着物やスーツの着こなしと振る舞い、後ろ姿(お顔も)は大スターそのものでした。

昭和を生きた人々の記憶の遠くにあるあの「色」はどんな色だったのでしょう…。
浅草の片隅を再現したセットの「くすんだ色」は裕福とはかけ離れた世界の中でそれでも懸命に生きる人たちを演じる役者たちをより輝かせているようでした。
生バンドの演奏が生む臨場感がさらに世界観を作り上げていてとても良かったですね。

〈彼の切なさと邪魔をするルックス〉

武さんを演じた林遣都さんは30代になってますます役の幅が広がってきました。最近ではVIVANTの「ノゴーン・ベキ」役が話題ですね。
武を演じるにあたっては、やはりプレッシャーがあったと思います。
劇の中の大人になる前の武は我儘で
いつもイラついているのに何にイラついているのかわからない。
熱くなってはすぐに冷めてしまいます。
けれど師匠となる早見千三郎のステージを見て「目覚め」芸人を目指します。
仲間たちと酒を飲み、自身の不甲斐なさや周りを見ては叫び、
周りと喧嘩をし、囁きながらタップを踏み、歌い、踊るという
それぞれのシーンを林さんは光と影を操るように見事に演じていました。

そして
役者として彼の強みとも言える「ルックス」が気の毒なくらいにこの役では邪魔をしていました。
大きな瞳の武さんに慣れるまで時間がかかりました(失礼)。
しかし、観ているうちに
以前、ある脚本家の方が林さんには「哀しみ」を抱えた役をさせてみたいと話されていたのを思い出しました。
彼は内に秘める感情、特に憤りに近い感情を表現するのに長けている役者さんのひとりだと思います。
「浅草キッド」では物語の初めから終わりまで武は哀しみと切なさを手放しません。そんな武を演じさせてみたいと思った制作陣・関係者の思惑が当たるかどうかは…
やがてわかるのでしょうね。

〈山本耕史さん〉

共演の山本耕史さんについては
ご本人が最後までカッコ良い師匠でいたいと話されていたようにカッコ良く、愛らしい深見千三郎でした。
先にも描きましたが場面毎の仕草、立ち回り、セリフの抑揚、
声のトーン、歌、顔と目の表情、衣装の着こなしと
まさにパーフェクトで笑、自身のパートでは誰よりも観客を魅了し楽しませ、
林さんたちとのシーンでは音楽劇が初めてという林さんをリードし引き立てていました。
山本さんのお芝居はこんなに説得力があ
るんだと衝撃でしたね〜。
10/12、10/13とわずか2回の観劇ですが自由に演じる(ように見せる)山本さんのアドリブらしいセリフも見られて面白かったです。

今回の舞台の要となっていた山本さん。
これは直感ですが、山本さんは中井貴一さんのような役者さんになるのではないか…と思いました。
歳を重ねてゆく彼の芝居が楽しみですね。これからもたくさんの彼の作品を観たいと思います。

〈「緩み」をもう少し〉

満足した音楽劇「浅草キッド」。
でもほんの少し、ほんのちょっと舞台全体に何か足りないような…。

上手く言えませんが座長のフレッシュな緊張感がキャストや舞台全体に伝わりすぎていたような気がします。

それは舞台独特の良い意味での「緩み」とでもいうのでしょうか。
劇の題材にもよりますが
客席側はたとえば少しのアドリブのような、気を抜く瞬間があると助かります。客席も同じように感情移入することがほとんどなのでほんの一瞬、現実に戻されるようなセリフとか笑。
音楽劇の主役が始めてという林さんは
…確かにフレッシュだけれどまだ余裕が見られず(そんなの無くてもいいかもですが)
先ほど書いた山本さんは緩ませるのが上手かった。
役のキャラもありますがちょいちょい小さな笑いをくれて、客席をリラックスさせてくれていました。
緩みを入れるとシリアスなシーンがより際立つこともあるはず。
でもこれから公演回数が増えてゆくとと「緩み」のような空間が出てくるかもしれませんね。

〈「喜劇」の中に〉

「浅草キッド」という物語と「ビートたけし」という人物の何がこんなにも人々を惹きつけるのか。
映画化やドラマ化、そして今回のように音楽劇となる作品を観ている私たちは、作品や役者たちのお芝居を観ながら、その答えを探そうとしているのかもしれません。

昭和のあの頃にあったモノ。
いつしか忘れ去られてしまったモノ。
幸せと一体だった哀しみ、切なさ。

漫才、コント、執筆、絵画にドラマ、そして映画と多彩な面を自由に表現して喝采を呼び込んでいるたけしさん。
でもその仕草や言葉に時々切なさを感じるのは師匠に聞きたかった答えや、予期しなかった別れの影があるからなのでしょうか。
かつてのフランス座の自分に
「令和のお前がやりたかったことはそれか?」と笑われないようにと思われているかもしれませんね(想像です)。

早見千三郎は人生は喜劇だと言いました。
人を笑わせながら
人から笑われたりしながらも
ものごとの真実を知っていたであろう深見。

昭和の笑いの中に令和を生きるヒントがみつかるのかもしれませんね。

良い音楽劇でした。
(幕間のお食事も美味しかった…)


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