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朝ドラ批評家の『虎に翼』考  第24-25週  今更気づいた「リーガルドラマ」の難しさ、面白さ

こんにちは、朝ドラ批評家の半澤です。今日は『虎に翼』24週ー25週を一気にまとめます。2週分ということもありますが、気持ちがあふれてめちゃくちゃ長くなってしまいました。

24週
原爆裁判が終わり、よね(土居香央梨)と轟(戸塚純貴)は「尊属殺人」の事件を受け、最高裁まで続くと思われる裁判を戦う決意をする。一方で70年安保闘争が起き、若者が逮捕されることに寅子(伊藤沙莉)は胸を痛めながら家庭裁判所に来る若者と向き合う。
寅子はその後、少年法改正問題を話すため家裁の面々と自宅療養している多岐川(滝藤賢一)の元を訪れる。ヒャンスク(ハ・ヨンス)は、家裁の判事たちの前で自分の姿を明かし「薫の前でチェ・ハンスクを取り戻したい」と語る。多岐川は少年法について病床から桂場に電話をかけたが、その後亡くなってしまう。

25週
大学院を中退し、家中心の生活を始めた優未(川床明日香)を見守る航一(岡田将生)と寅子。朋一(井上祐貴)は最高裁事務総局から家裁に異動を命じられ憤慨していた。
その後、寅子は家庭裁判所で並木美雪(片岡凛)と出会う。彼女は新潟で出会った美佐江の娘だった。美佐江はもう、はるか昔に亡くなっており、寅子は彼女の残した遺書を見て動揺する。

いろいろな事件があって混乱したので整理します

バタバタと出張したり旅行していたりというのもあり、改めて24-25週を見直してみました。
コンテンツが多いので整理します。

24週
◎法律・人権関係
尊属殺人
安保闘争で家裁がバタバタ
安保闘争にヒャンスクの娘、薫が絡む
最高裁人事局での女性蔑視発言
公務員による闘争参加に対する判決について
家裁への不満を持つ政治家の介入・少年法の改正問題VS桂場(松山ケンイチ) 
薫とその母、ヒャンスクに対する差別
今、ふたたびの美佐江、いや美雪(片岡凛)との対峙

◎家族関係
のどか(尾碕真花)の結婚
大学院をやめた優未(川床明日香)
毎度怒っている朋一

長々とすいません、こんなものでしょうか。複雑なのは「寅子目線じゃない話題も多い」ということ。「少年法改正」うんぬんは、多岐川さんや桂場の話でもあったし、物語の柱ともなった尊属殺人はよね・轟コンビの話でした。

話詰め込みがちは「モデルもの」あるある

今回思ったのは、朝ドラの「モデルもの」の難しさです。朝ドラというと脚本家による「オリジナル」(といっても多少の参考、モデルはいるのでしょうが)と、ずばりこの人、この夫婦がモデルですという「モデルもの」に二分されます。
それぞれ、一長一短あると思いますが、ここでは「モデルものについて言及しましょう。

モデルもののよいところは、有名人や文化人がモデルなので話が読めやすく、ドラマに寄り添ってあーだこーだ言いやすいということですね。モデルについてあらかじめ調べてドラマを見る、何も知らずドラマを見る、それぞれの楽しみがあります。
また近年は舞台となった土地や関連施設が盛り上がるということも注目されています。全国各地が舞台となる朝ドラは多分に町おこし的要素がありますが、「ぜひ、おらがまちの有名人を!」という朝ドラ誘致もあるよう。
たとえば2020年上半期『エール』。昭和の古関裕而とその妻、金子がモデルでしたが、これは明確に古関裕而の地元福島市、金子の地元豊橋市が「誘致」したという記述が残っています。署名をして誘致活動をしたという話、ちょっとびっくりしたし、面白い話ですね。朝ドラの経済効果など、データ化して発表してほしいもの!

「オリジナル」でももちろん、朝ドラ舞台は盛り上がりを見せるでしょうが、モデルがいると尚のこと。僕は2023年上半期『らんまん』放送中に高知県に行きましたが万太郎万歳! 牧野富太郎先生万歳!って感じで大盛り上がりでした。
モデルがいると事実との違いや共通点について話題があがるのが面白いです。前述の『らんまん』モデルの牧野富太郎は植物学業界ではあまりに有名な人なので、「ここで〇〇事件が起きる」「これは◎◎に行く伏線」といった声がSNSに上がり、ネットニュースに引用されることがありました。これは有名人がモデルだからこその盛り上がりといえましょう。
一方で、「モデルもの」の難しさもよく感じます。有名人、文化人は功績がたくさんあり、どのエピソードも詰め込みたくなる。脚本家の想い、もしくは政治的な判断もあるでしょう。ただ、エピソードが多すぎると軸とすべきストーリーがおざなりとなってしまうし、ドラマとして破綻しかねません。
これもまた『エール』を引いてみましょう。失敗例ではなく成功例。見事だと思った脚本、演出です。モデルの古関裕而は数多くの名曲を残した作曲家。それゆえ、どの曲のエピソードが、どう語られるかというのが大きな話題となりました。そんななか、『エール』では古関の代表曲の一つともいえる『六甲おろし』がとってもあっさり扱われたのです。「軽く扱われた」という向きもあるかもしれませんが、この判断は素敵だったなと、今思い出しています。『六甲おろし』を一瞬で終わらせる代わりに『露営の歌』など、今の人はあまり知らない戦時歌謡を作る様子を丹念に描いていました。これにより、戦争、さらには反戦のドラマという趣が強くなり、明らかにドラマに厚みが出ました。そして、コンテンツ過多という印象も不思議と小さかったように感じています。エピソードの取捨選択は「モデルもの」における、かなり重要なファクターといえるでしょう。

『虎に翼』はかなり異色なリーガルドラマ

では、『虎に翼』。『虎に翼』はかなりフィクションを上手に使ってきた朝ドラです。たとえばモデルの三淵嘉子の最初の夫との子供は男でしたが、ドラマでは優未、つまり女性です。モデルにとらわれすぎないというのが、本当に上手だと感じています。
ただ、上記したようにここ数週間はさすがにコンテンツが多すぎるきらいがありました。と、同時に感じたのはリーガルドラマ、さらに判事ドラマの難しさ、そして面白さ。

リーガルドラマというと思い出されるのが、僕の世代だと木村拓哉『HERO』(フジテレビ系)でしょうか。検事目線で事件を解決していくという作品でした。一方弁護士目線でも良作はたくさんあり、堺雅人・新垣結衣コンビの『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)や今年放送された長谷川博己主演『アンチ・ヒーロー』などがあります。朝ドラでも1996年上半期、松嶋菜々子主演でヒットした『ひまわり』が弁護士ドラマでした。
なるほど、振り返ってみるとリーガルドラマってとてもわかりやすいんですよね。事件という明確なコンテンツをどう回収するかを、ときに敵(それが検察だったり弁護士だったりするわけですが)目線も織り交ぜて展開する。定期的にリーガルドラマが作られてヒットしてきた理由がよくわかります。

『虎に翼』はけれど、これらリーガルドラマとはまた毛色が違う作品ともいえます。寅子は家庭裁判所ですし、リーガルドラマの本流、刑事事件を扱うわけではありません。また判事のため(最初は弁護士でしたが)、判決を言い渡す側の人間。ドラマ本編でも言っていましたがむしろ人に「寄り添う」のが仕事の人でした。
これって、めちゃくちゃドラマ化、映像化、難しかったのではと改めて思っています。
そのなかで、実際にモデルの三淵さんの功績を散りばめていく、そしてフィクション部分もしっかり仕上げていくという。本当すごい仕事!
「最近コンテンツが多かった」なんてつっこむのは、重箱の隅を突くようなものなので、まったくディスっているわけではありません。
判事もののドラマは最近でいうと『イチケイのカラス』(フジテレビ系)がありました。すいません、これは拝見してないのですが、刑事裁判ものなのでリーガルドラマのメインストリームといえましょう。『虎に翼』がいかに異色のリーガルドラマだったかが実感できます。

『虎に翼』、本当にうまかったのは山田轟法律事務所を作ったことですよね。寅子、つまり判事目線では入れられない話題や事件を、弁護士目線で扱えたのは二人の活躍あってのこと。そして、何より事務所開設や今に至るまでの、よねと轟の関係性が素敵です。最終週の予告「行け、山田」という轟の声だけで僕は涙してしまいました。寅子を主役としたリーガルドラマでありながら、よねと轟、そしてほかのかつての学友みんなを絡めてのリーガルドラマである。これは新しいやり方ですしかなり緻密な物語の構築が必要だったはず。よくぞここまで!と本当驚くばかりです。そして、美佐江、美雪問題を最終週まで引っ張るという「寅子目線」もおざなりにしません。これも見事でしたね。

まだまだ書くことが多い『虎に翼』。たぶん、ドラマが終わってもいろいろ書いていきます。


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