⑦つなぎでアルバイト

  一応、契約満了での離職なので、失業保険が降りるまで猶予を待たなくて良い筈だが、一日も早く定職に就きたい。過去の無職経験から、家に籠っている時間が長ければ長いほど、再び外へ出ることがしんどくなるのが予想出来るからだ。年齢的にも転職は最後にしたいため、定年まで働ける正社員での就職を目指しているが、好き過ぎるけれど食べて行けない適職から離れる決意をした反面、何が代わりになるのかわからなくなった。
 勤務条件で譲れないのは、人ひとり生きて行く上で最低限必要な月収。土日祝日の休み。そして賞与が確保されていること。贅沢だと言われるかも知れないが、過去20年以上働いて来た結果から、必要最低限それだけは必要だと感じた。
 自身が就職氷河期世代と呼ばれる年代だったことは、最近取りざたされるようになって知った。非正規雇用が殆どの状態で仕事を続けていたが、正規職員と大差なく働いてきた。実績は積んだと思っているし、直近の適職は、そもそも正規雇用の枠が無い。だからといって、何のスキルもいらない職業ではなかったから、この経験を経て、得たものの何と多かったことかと思う。
 一年前、雇用を確約してくれた職場は、雇用形態に関係なく、私の職務経験を買ってくれたのだった。それを思えば、様々な理由があったとはいえ、とんでもないミスをおかしたのかも知れなかったが、今更何を言っても後の祭り。前へ進むしかない。
 私は賞与というものをもらったことが無い。かといって、月収が豊かだったことも殆ど無いのだ。将来的に必要となるお金のことを考え出すと病気になりそうなので、あまり考えないようにはしているが、一定の貯蓄や、生活を維持していく上で必要となる大きな買い物にも備えておきたい。自分より若く、経験も実績も無い人達が無理なく手にしているそれを、私が望んではいけない理由があるとしたら、とんでもない社会的差別であるとさえ思える。必要なのは、仕事や職場との縁なのであった。
 何もせずに失業保険で食いつなぐより、何かしてひとつでも出来ることを増やしたい。希望の条件で働くことが急務であったが、現状では簡単ではないのだという実感もある。ならば、やってみたい!と思ったことに何でも挑戦しようと思った。
 たまたま見つけたレアなアルバイトに応募する。こんなバイトがあったのか!しかもこんな近くに!と、久しぶりに浮足立った。
【週四日からOK。時間相談応ず。】と書いてあったが、平日に今まで通りフルタイムで働けるなら本望だった。インターネットから応募し、翌日には面接の日程調整を申し出る返信があった。応募先の都合に合わせる旨、メールを送った後、連絡が途絶える。3日待ったが連絡はない。再度問い合わせをし、2日後にようやく、日程調整を知らせるメールが届く。春分の日の午前に面接してもらえることになった。
 有休消化で休み始めて以来、十日ぶりにバイクに乗った。天気は良いのに頗る寒い。
 近いが見つけ辛い場所だった。あまりにも寂れていて驚きもした。従業員らしい人が、一輪車を押しながら裏へ回るのが見えたが、挨拶する間もなく姿を消したのでインターホンを押した。応答がない。先程裏へ回ったのが主なら、手間取っているのかも知れないと思い、暫く待ってからもう一度押す。同じくらい待ったあと、ようやく扉が開いた。
 面接するからといって、相手の服装に規定はないのだと思うが、人に会う恰好ではないと感じた。足元のクロックスが特に気になる。面接されるのは私なのに…。
 古びた事務室に通され、履歴書を手渡した途端、相手の電話が鳴る。顧客からの問い合わせらしく、そのまま十数分待たされた。
 結局「つなぎは✕」と断られる。面接日の調整をする時点で、既に応募が殺到していたらしく、応募者全員に【土日祝日勤務出来る人優先】というメールを一斉送信していたのだと聞かされたが、私には届いていなかった。別のアルバイトが決まったのだとは言われなかったが、残念だとは思わなかった。話の内容は的確で、現状では私に不向きだと感じた。互いに望んでいることが違い過ぎる。その日、出勤しているらしい茶髪の女の子の姿が見えたが、全く楽しそうではなかった。彼女の他に勤務している人の姿は見えなかったので、一日一人いれば充分なのかも知れないが、【週四日からOK。時間応ず。】は、ハードルを下げ過ぎた結果だったのだろうと想像出来た。
 寄り道する必要はない。
 前向きに捉えることが、自分にとっての最優先課題なのだと思うことにした。

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