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プラセボ探偵 光永 理香 17

17  伍億円事件別件逮捕事件(推理編)

 しかし合田栄一は死んでしまった
自らに罰を与えるかのように 彼が望んだ「スキャンダル」は関東電力が仕切った葬儀によって全てが封じ込まれた そのチカラは多方面におよび栄一の死の真相を掘り返す人間は日本にはいなくなった    

「さて問題は別件逮捕された私の父親の方だ」
「大方、亀太郎から圭一を探し出し陥れてでも伍億円事件の犯人に仕立てろ!と命令されたんでしょう」駒田が吠えた「だから会長を侮辱するな」
私も吠えた「うるせえ!」「オマエは関係ねぇんだよ!昭和のサラリーマンの生き残りがっ!人生捧げる相手を間違えてるんだよ!」
 駒田は小娘に怒鳴られてまた苦虫を噛み潰した
私は気分を変えて穏やかに言う
「まだ登場人物が揃ってない様ですね」
「私の父親を別件逮捕に陥れた張本人がまだです」
「まぁどうやら今日は来てない様ですね」
「あっそうか 彼奴ももう結構な歳だもね、亀太郎と一緒にオネンネかな」私はドアの方に歩きながら「もうそろそろ失礼しますねドアを開けて下さい」
ドアは開かない
「私が帰らないとタクシーの料金がとんでもない金額になってしまいます」「支払いを待っている運転手は警察に通報するでしょうね」「この屋敷にも聞き込みに来るでしょう」「怪しまれますよ〜屋敷に入った女性が行方不明になってしまったら」

ドアが開いた
喜美子が口を開く「駒田、送って差し上げて」
顰めっ面の駒田が舌打ちをしながら「こちらへ」と
手招きした 屋敷を抜けてさらに庭園を歩いて最初の門に着いた
駒田が「ここまで来れば後は大丈夫だろ」と吐き捨てる 私は笑顔で振り返りそして駒田を大内刈りで地面に叩きつけた、倒れた駒田を寝技で首を絞めたが「オマエ何すんだよっ」とニヤニヤしながら私の胸に顔を擦り寄せてくる    「私が気づいて無いとでも思ってるの?」駒田がツバを吐いた「駒田あんた、私に薬を嗅がせて気絶させたでしょう そのお返しよ」首を絞めて失神寸前まで絞めてやった 女だからって甘く見やがって腹が立つ 咳き込んでいる駒田に「車で来てるんだろ、駅まで送れよ」と駒田は不思議そうに「タクシーは?」と首をさすりながら起き上がる

「そんなの嘘に決まってるだろ」
「タクシーなんか待たせてるわけないだろ」
「料金いくら掛かると思ってるんだよ?」
「あんたら感覚が全部ズレてんだよ」

家に帰ってみると記者や野次馬は消えていた
「世間の興味は他に逸れたか」
しかし事実は変わっていない父の汚名はそのままだ
栄一さんの無念もそのままだ

「やっぱりこのままでは虚の現実が真の現実のまま時間時空は流れてしまうんだな」
「親分に説教しても命令を受けたヒットマンは確実に任務を遂行するもんだな」

「さてどうやって彼奴を誘き出すかな・・・」
「現代から過去へ」

 黒山 麟一郎は「名警部」の名声を欲しいままにしていた これまで数々の事件を解決に導いている ところがこの「伍億円事件」だけは捜査が暗礁に乗り上げて思う様に進まない

もちろん目撃者はいる、現金輸送車の運転手や同乗者三人 この四人の目撃証言がまるで統一感が無い
モンタージュは四人四色、まったく参考にならない
物的証拠もあり余る程ある なのに全く犯人像に結びつかない「この犯人には実像はあるのか」と疑いたくなる程だった あえて挙げれば犯人が出したとされる脅迫文だった ご丁寧に直筆で書かれていた新聞や週刊誌の活字を切り貼りした短絡的な文では無くボールペンで書かれていた 綺麗とは言えないが丁寧に誤字も無く便箋に認めらていた しかも所々に特定の地域特有の癖の様な言い回しが使われている 犯罪科学研究所(通称ハンケン)が今必死に当該地域の割り出しに当たっている 

 黒山にハンケンの報告が上がって来たのは事件発生から2ヶ月が経っていた しかし待った甲斐があったと思える内容だった 「ご依頼の脅迫文に見られる文章の癖の様な言い回しの特定が出来ました」
「特定地域は北海道更には道東地区に見られる方言かと思われます」

 『俺は人生が〝こわい″』
 『俺は人生に恨まれている』
 『もう逃げ出せない やるしかない』
 『お前達から金を奪ってやる』
 『金さえあればやり直せるんだ』
 『せいぜい用心するんだな』

脅迫文の一部を抜き取った物です
ハンケンの研究員が説明し出した

 我々は当初この〝こわい″を「怖い」と考えていました 「自らの人生を恨み、過去を悔んで恐れ慄いている」と だから不幸から逃げだし犯罪に救いを求める弱い人間だと想像しました
 しかしこの〝こわい″は「怖い」ではなく北海道東部の方言で「こわい」つまり「疲れてしんどい」と言う意味でした この脅迫文を書いた人物は怖くて恐れ慄いていた訳ではなく今はしんどいけど金さえ入れば楽になると犯罪に前向きな印象がします
 だから元々金に依存する傾向があります
「金さえあればやり直せる」と本気で思っている
だから金は有ればあっただけ良いと思っている 根っからの貧乏人の発想だと感じます。

 黒山はこの報告を聞いて「やっと犯人の人物像が現れた」と感じた「北海道東部の出身で生活が困窮していた人物」しかも「ただ大きな事件を起こすだけが動機な人物」 黒川はこの条件に当てはまる人物を探す様に警視庁の全警官に聞き込みの徹底「ローラー作戦」を発動させた 従順な日本警察は寝る間を惜しんで捜索した そんな日本中が血眼になって探した何千といる容疑者の中に「光永圭一」がいた

つづく(17/52毎週日曜日20:00更新)

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すいません、明日も休みだから曜日を勘違いして更新が遅れました


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