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ロストバゲージになりたくて

皆さんはGWをどう過ごしただろうか。
惰眠を貪るもよし、精力的に外に出るもよし、過ごし方は三者三葉かと思う。

以前記事でも少し触れたが、故あってGWは毎年同じメンバーで旅行をしている。同行メンバーは大学時代の親友であるタイツ先輩、IH、A君だ。IHが参加していることは前回触れなかったけれど、本当はいた。記事の趣旨がブレるので省いたのだ、悪しからず。※メンバーは識別しやすいように書いてるだけなので、知らなくても大丈夫です。

2023年。今年は佐賀と福岡に行った。行ったことのない県に行くのがテーマなので、今回のメインは佐賀となる。
ではなぜ福岡を組み込んだのか。

正直、佐賀で3泊4日は無理だと思ったからである。

かつてお笑い芸人のはなわが自身の歌で軽やかに佐賀をディスったせいで僕らは佐賀=何もないという先入観を持った。

また去年のM-1グランプリで漫才コンビのさや香が「佐賀は出られるけど、入られへん」といじったことで先入観は色濃くなった。

事実、ガイドブックがペラい。これは本気で臨まないと痛い目を見るぞ、と思い、日がな一日インスタの[ハッシュタグ佐賀観光]でインフルエンサーの投稿を探した。

この時点で僕の気合いの入りようがお分かり頂けただろう。

今読んでくれているあなた達が及びもつかないほど、僕はこのGW旅行を楽しみにしている。遊びというより儀式であり、脱皮であり、サナトリウムなのだ。この感覚、1mmでも伝わるだろうか。

僕のわがままで繋ぎとめられた大学時代の友人たち。どんな辛いことや悲しいことがあろうとシェルターの役割を果たしてくれる場所。何物にも代えがたい宝物である。

旅行当日は本当に何のストレスもない明るい気持ちで迎えられた。朝、空港に集合する瞬間がとても好きだ。下手したら半年ぶりくらいに会うのに「おっす」とだけ言って、当たり前みたいに隣に座るこの瞬間である。野郎ならではのムーブではなかろうか。

ちなみに会って早々、IHの荷物が既定の7キロを倍近くオーバーして追加料金を請求されたり、A君が機内で食べようと買ったシュウマイが密封冷凍食品で、しかも空港にレンジがないので史上最速のおみやげと化したり、笑神がザザ降りだった。おまえら何やってんだ。

2時間ほどのフライトで一旦福岡空港に着いてから、カーシェアで佐賀入りを果たした。観光名所の詳細については長くなるので割愛するが、結論を言うと佐賀は新しさであふれていた。駅前にはサガハツなるオシャレ飲食店が並ぶストリートが完成していたし、各所に点在する温泉施設はどれも最新でキレイな造りだった。このギャップはトゥンクである。

そして何より、旅における解放感は凄まじい。この場所にいる誰もが僕のことを知らなくて、すべてのしがらみが消え失せて、誰でもなくなれて、何もかもが一期一会だ。まるで行方不明になったキャリーケースのように、何の責任もなく、身を任せるがままに偶然その使命から解き放たれた気分だ。胸の内でクラッシュが何度も「最高だぜ~」と叫んだ。

初日の夜は、佐賀牛を格安で楽しめる焼肉屋さんで祝杯をあげた。目の前の迫力ある肉たちに興奮してか僕はふとこんな言葉を零していた。

「俺はこの旅行を1年で1番楽しみにしているんだよ、マジでこの4日間に全振りしてる」

なんか恥ずかしいね

今思えば、みんなは無理してない?という不安の裏返しだったのかもしれない。
前述のとおり、この旅行企画は僕が大人になりたくなくて組んだ恒例行事である。男4人旅ならではな最低レベルの猿未満トーク。えずくほど笑ってバカになりたい、そのために5,6万円を支払う愚かさ。

僕だけの願望でもいいから巻き込んでやるぞという思いだった。そこに対して今まで特に罪悪感は感じていなかったのだけれど、よく考えたらIHとタイツ先輩は結婚をしている。残るA君についても女性向け風俗で働いており、全国のお客さんから引っ張りだこだ。まさに稼ぎ時であるGWの4日間を僕の為に犠牲にするなんて、あまりにも可哀想ではないか。

不意に心の中が静かになった。(ちなみにA君を1日借りると20万円かかるらしい)

僕の赤裸々な発言はその場ではさらっと流されてしまったので、やっぱり皆もっとやりたいことあるのかな、なんてぼんやり思ったのであった。

最終日。福岡空港発、成田空港行きの便が強風で遅れた。なんとなく帰りたくない僕の気持ちを代弁しているかのようだったし、そもそも僕は旅先のトラブルが多ければ多いほど思い出深くなって嬉しいタイプだ。いつかこの旅を振り返る時に、記憶を紐解くフックとなるだろう。

閑話休題。

成田空港に着いたが、既にすべての交通機関が運行を終了しており、僕ら4人は茫漠な空港に投げ出された。誰からも何の助けもなくぽつんと放流された感覚がゾクゾクする。幸いにして翌日は休みだったので空港近くの東横インに宿泊することになった。

コンビニでお酒とおつまみを買って、部屋で軽い打ち上げをした。旅の写真や動画の共有をしてもう一度4日間をやさしくなぞった。今日眠りに就いたら、旅行は幕を閉じる。嫌だな、もったいないなとか考えている内に微睡んで意識はフェードアウト。

朝、食事も取らずに僕らは散り散りになった。僕は別件でそのまま家に帰らず飲み会に向かった。A君は女の子のところへ向かった。タイツ先輩とIHは実家から奥さんが帰ってくるので家路を急いだ。各々が旅行後の浮遊感を抱えて、バタバタと日常に戻っていく。なんとなくスイミーみたいだなと思った。

夜、お疲れLINEが来ていたので返信しようとして、僕は手を止めた。

「みんなありがと~!毎年の楽しみなので今年もみんなと行けてよかった!!!」

by A君

僕の初日の発言に対するアンサーであり、いじりだった。

胸にとめどない嬉しさがこみあげてきて、少し泣きそうになった。それぞれの生活が、年月を経るごとに枝分かれしていく。誰も悪くないし、それこそが生きている証拠なんだけれど、だからこそ変わらぬものは尊い。これから1年、この4日間の思い出をガソリンにして生きてゆける。

来年はどこに行こうね。

2023年5月14日 自室にて、近所にできたドーナツ屋気になる、初夏。

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