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通勤中に見つけた自分だけが知っている春

通勤中に、ムスカリが咲いているのを見つけた。毎年3月中旬になると、同じ場所から必ず顔を出す。コンクリートの隙間から出てきた小さな紫のムスカリが、桜よりも先に春の訪れを教えてくれる。
今年も会えたね。

他の人は気づいているのだろうか。
それとも、知っているのは私だけかな。毎年この時期になると、必ずここでムスカリに出会えることを。


この球根はどこから来たんだろう


私は知っているよ。あなたがいつも、3月中旬になると現れるのを。毎年、見ていたよ。

きっとこのムスカリも、毎年3月の私を見ていた。
仕事を辞めたいと思いながら歩いていた私を。親が病気になり、険しい表情で歩く私を。モクレンの花が咲き、春を感じて機嫌よく職場へ向かう私を。
今年の私は、どう見える?


普段はつまらない通勤中、何かが待ち遠しいというのは、ちょっと気分がいい。「仕事、嫌だな」と思いながら浮かない表情で歩くのではなく、「今年もそろそろかな」と自然を意識して歩くと、朝から気分がだいぶ違う。


気に留めていなかったら、見逃すような小さなムスカリ。
自分だけが知っている春。
マスクの下でひとり微笑みながら、職場へ向かう。

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