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東京23区外の銭湯を愛でたい

銭湯がブームである、と語られる時、大体話題に上がるのは都心の銭湯ばかりな気がする。もちろん、それだけ都心の銭湯に魅力があることは認めるけれど、かと言って23区外の銭湯に魅力がないかと言えばそんなことはないわけで。個人的に好きな多摩地区の銭湯を語りたい。

1、国立市「鳩の湯」

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一つ目は中央線国立駅から10分ほど歩いた場所にある鳩の湯。名前の通り、鳩サブレ……のような店のシンボルマークが可愛らしい銭湯。元々昭和33年から営業している老舗銭湯であったが、令和2年にリニューアルしたばかり。そのため、施設内はとにかく清潔かつ綺麗。地方の温泉施設のような雰囲気すらある。

鳩の湯のポイントは何といってもその湯質。汲み上げた地下水を軟水化し、ナトリウム温泉に近いようなバランスに仕上げているらしく、湯ざわりが柔らかい。その泉質を一番実感できるのはやはり水風呂。包み込まれるようなその湯触りに、トロトロになってしまうこと間違いなし。ほかにも高濃度炭酸泉があったり、屋外には小規模ながらオープンエアの外気浴スペースも用意されている。

フロントの前には休憩スペースもあり、ここで生ビールなども飲める模様。今のご時世だとなかなか怖いけど、もう少し落ち着いたら、風呂上りに一杯キメて帰るのは最高に気持ち良いだろうな……。


2、昭島市「富士見湯」

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土地勘がなければあまり近寄らないであろう青梅線東中神駅近くにある銭湯。周りには都営住宅などの団地密集地帯となっていて、夕方時には住民であろうご老人などで賑やかになる。本来、正しい銭湯の在り方っていうのはこういう地域に根付いて愛される姿なんだろうなあと訪れるたびにしみじみと思う。

昭島市は知る人ぞ知る水の豊かな自治体で、水道水の水源は地下水を100%使用している。ここ富士見湯も同様に、地下水を利用した銭湯で、水風呂の水などはそのまま飲めてしまえるらしい(もちろん、浴槽に貯まった水を飲むわけではない)。

僕がこの銭湯を好きな理由として高温浴槽が大きい。この浴槽、温度が45度とかなりの高温なのだが、恐る恐る浸かってひいひい言いながら身体を慣らしていくうちに、何とも言えない心地良さに包まれていく。恐らくこれも湯質が良いからなのだろう。少しお湯に浸かったら、水風呂へ直行。その後は椅子で休憩。これのエンドレス繰り返し。この感覚何かに似ているなあと思ったら、小杉湯だった。水風呂の柔らかさと言い、あつ湯の温度と言い、「西の小杉湯」とでも呼びたい様相。当然、最高に整ってしまう。

また、富士見湯は遊び心に溢れているのも特徴。営業時間なんて昼の12時から翌朝9時までの通し営業だし、寝ころびスペースというロフトの休憩スペースまである(こちらは別途有料)。浴槽ではあひる人形を大量に浮かべたあひる湯だったり、ダンベルを浮かべたダンベル湯なんてものまで定期的に開催。そして、何よりもはじめてここを訪れた人間を驚かせるのが、ポップ過ぎる壁画。カラフルな彩色に鳳凰だとかプードルだとか何とも脈略のないテーマが描かれていて、こんな銭湯壁画唯一無二なのでは。浴室は少し年季が入っているけれど、それすらも愛おしくなるような銭湯。


3、八王子市「松の湯」

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八王子の駅から離れた住宅街にある銭湯。遠くからは昔懐かしい煙突が印象的だけれど、実際に現地にたどり着くとそのモダンな佇まいに驚く。松の湯は昭和29年創業の老舗銭湯。長年地元で営業してきたが、2016年に一度は閉業を決意。しかしながら、廃業を惜しむ署名が多く集まり、2019年にリニューアルオープンを果たしたという何とも愛された銭湯。リニューアルを手掛けたのは渋谷の改良湯も担当した今井健太郎氏。

浴室の造りは昔ながらの銭湯そのもので、高い天井。正面にはモザイクタイルの富士の壁画。真ん中の仕切りが男女湯を区切り、そのまわりにはカラン。レンガ調のタイルを使用しているため、浴室の雰囲気は温かく何だかお洒落。今風でありながらどこか懐かしい温故知新な様相。

松の湯には露天風呂があり、このスペースが何とも言えず心地良い。日替わりの薬湯となっていて、訪れる度にお湯が変わるため、飽きることがない。ドドンと主のように鎮座するカエルの石像を前に湯に浸かっていると、何だかどこかの温泉宿にでも来てしまったかのよう贅沢な気分になる。

また、ここも水風呂が良い(水風呂のことしか語っていない気がしてきた)。地下水を利用した水風呂はなめらか。塩素臭もなし。造りも大きいので足を延ばしてゆっくりと浸かることができる。温度は少し高めながら、それがまた心地良くいつまでも浸かっていられる。露天スペースにはベンチが用意されているので外気浴も捗る。家の近くにもし銭湯を一つ作れるなら、欲しいのはこういう銭湯だよなあとしみじみと思う。こじんまりとはしているけれど、必要最低限は揃っていて、清潔でとにかく居心地が良い。こういうので良いのである。

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2階には休憩できる漫画コーナーも完備。ここももう少し落ち着いたら、風呂上りにゆっくりと過ごしてみたい。


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僕は元々銭湯への興味は少しもなかったのだけれど、やっぱり小杉湯と出会ってから考え方が変わった気がする。スーパー銭湯ほどの華美さはなく、地元に密着していて、誰からもささやかに愛され続ける。何だかそんな愛おしい存在が銭湯であろう。生活の中に、ひっそりと常に位置していて欲しい存在。手が届く場所にあって欲しい存在。

多摩地域の銭湯もまだまだ魅力的な施設はたくさんあります。今は少し自粛も必要だろうけど、もう少し落ち着いたら是非西の方へも足を運んでみてください。誰かにとっての大切な場所がそこには待っています。