バスケで敵にパスを貰ったって話

 おはようございます。はのとです。

 昨日ジャンプを読んでいたら、急に一年前の失態を思い出しました。きっかけはスラムダンク。いや、今のジャンプにもちろんそれは載っていませんが、連想ゲームみたいな感じで思い出したんです。

 大学1年生のとき、私はバスケの授業をとっていました。でも、バスケの経験はありません。というか、体育は全般苦手で嫌いで、得意なのは器械体操だけでした。特に球技が苦手で、体育の先生方には迷惑をかけてここまで生きてきたのです。

 そんな私がバスケを履修したのには浅い理由があって、一番の原因は友人のそそのかしです。教員を志望しているため体育系の授業の履修は必須だったのですが、大学の体育にはいろんな種類があります。デトックスみたいな、ヨガみたいな、色んなのがあるんです。だから、私みたいに文化部の申し子は、そういう授業を取るべきなんです。

 そんな私を隣でそそのかしたのが友人二人でした。バスケ一緒に取ろうよ、スポーツの授業とらなきゃなんでしょ、どうせ月曜は二限しかないんだし、バスケやって帰るだけだよ、なんて数々の御託を並べられたうえ、いつの間にか履修登録の画面にバスケが入っていたのですから、もうあきらめるしかありませんでした。

 シラバスを見る限り、技術で評価はしないようなので安心し、そんなガチじゃないだろうと高を括って授業に挑んだんです。

 でもね、待っていたのは、部活顔負けの授業。走り込みや基礎錬の基礎錬みたいなやつ。あれさ、半年しか履修しない人の役にも立つんですかね。試合やる前からへとへとなんですよ。真冬に汗だくで。てか、パスにしても何にしても、まず練習の手順が複雑なんです。

 斜め右にパスを出して、左に走って次は前からパスを貰って左前のゴールにシュートしてまた斜め右に走る、みたいな。え?何?つまり何?走ればいいの?パスすればいいの?どれ?どれが私の仕事?です。

 そんなのを60分くらいやってから試合です。走り回るんです。屈強な男たちと屈強な女子の経験者に囲まれて、がちがちの運動音痴が走る訳です。こういうときは、空気を読んでパスとか出さないでほしいんです。高校までだとそうじゃないですか。役に立たないやつにはパス来ないんです。それで成績下がるんですよ。

 でもね、大学生。大人なんです。気遣いとか覚えちゃってるんですよ。つまり、何も出来ない足手まといの権化みたいな私にもみんなパスくれるんです。屈強な男たちから、次々とパスが回ってくるんです。

 空気の読める私は、貰ったパスを真っすぐ返します。これ以上私が持っていても意味がないので。戻します。それがルール違反だろうと戻します。戻して、次が来ないように走って逃げるんです。

 そう、逃げてるんですよ。でも、屈強な男たちは負けません。逃げた先がゴールの真下という奇跡を起こした私に、またボールを回します。後はシュートすれば2点。しかも、特別ルールで女子のシュートでは3点なので、一気に巻き返せる訳です。

 でもね、いいですか。私は人間よりボールに嫌われてるんです。彼らとは一生分かり合えない確執があるんです。つまり、ここで私が点を決めるには、このボールを元の屈強な男に戻すしかありません。

 でも、彼は拒否しました。優しいおおらかな笑顔で、「大丈夫!打っちゃって!」なんて叫ぶものですから、もう後戻りはできません。19歳、147cmの金髪運動音痴には、それに対する拒否権はありません。だから、スラムダンクで身に付けた知識をフルに活用して、ゴールめがけてボールを投げました。空気の読める敵チームは、全くディフェンスをしないので、もうこれチャンスとかじゃなくて義務です。

 で、外しました。外す方が難しいタイミングで、外しました。まあいつものことです。知っていました。大丈夫。全然落ち込んでなんかいませんよ。結果は最初から見えていたんで。

 シュートを外した後にすべきことは、相手のゴールに向かって走ること。速攻を阻止することです。ということで走り出そうとボールの所在を確認すると、それを持っていたのは黄色いゼッケンをつけた味方でした。よかった、私のミスを挽回してくれる、、そう安堵の息を吐いて、シュートの様子を見守ります。

 という姿勢を取っていたのにも関わらず、ボールは上には飛んでいきませんでした。ボールが向かって行った先は、この場にいる誰よりも嫌いな相手。そう、私の胸元です。いいとこ。完全にキャッチの範囲に入っている綺麗なところ。

 つまり空気の読めない彼は、シュートを外した私を慰めようと、落としたボールを戻してもう一度チャンスをつくってくださった訳です。ほんと、空気読めませんね。そんなんだからモテないんじゃないですか?知りませんけど。

 これをさらに返す権利はもちろん私にはありません。味方も敵も、その場にいる全員が私のシュートを望んでいます。なんてことでしょうか。本当に意味が分かりません。私に、これ以上罪を重ねろと言うのでしょうか。もう、私は間違えたくないんです。真っ当に生きていきたいんです。なのに、どうして更生の道を阻むんですか。

 仕方がないので、ディフェンスがつかないまま、二度目のシュートを打ちました。結果はもう言わずもがなでしょう。二度目、しかもポジション取りも秀逸。そのうえそれを阻むディフェンスもいません。ゆっくり狙って、ゆっくり打つことが出来たのですから。

 外しました。本当に期待を裏切らない女で困っちゃいますね。で、期待を裏切るのが味方です。リバウンドを制すはゲームを制す。いや、制すなら次のボールの動きは分かりますよね?あなたがそのまま打てばいいんです。せっかく制したリバウンドですから、無駄にしないでください。

 「もっかい!!」きた~~~~~~~~~~~~。いやもういいって。2回外してるんですよこっちは。もうこれ以上は無理です。後世に残る汚点を付ける訳にはいかないんです。やめてください。私にどうしろと?これ以上何をしろと?2回外してるんだよ?しかも、これが初めてじゃない。今まで数か月、一緒に授業を受けてきたでしょ?私の何を見て来たんですか

 そんな私の葛藤をよそに、外野は大盛り上がりです。もういっそ、冷やかしてくれた方がましです。外せコールとかしてくれた方がましです。なのに、そんな期待のまなざしを向けないでください。シュートのコツを叫ぶのはやめてください。黄色い声援はやめてください。そんなことをするから…

 3度目も起こるんです。いいですか?運動神経というのは、ちょっとやそっとのピンチじゃ伸びないんです。断崖絶壁に立たされても、3ポイントシュートは決められないのと同じです。追い込まれれば追い込まれるほど、私が点を決める確率は下がるんです。いいですか?覚えといてください。自分勝手な優しさは、かえってその人を傷つけるんです。

 そんな私の悲痛な叫びが届いたのか、次にリバウンドを制したのは敵チームでした。いつも通り、私はやりもしない速攻に走り出せばいいんです。やっと拷問が終わった、、、

 というのは私の幻想だったみたいです。どこから幻想だったのでしょうか。どういう訳で、4度私の手元にボールがあるんでしょうか。リバウンドを制したはずの彼が、どこか複雑な表情をしているのでしょうか。いつから、敵と味方の区別がなくなったのでしょうか。

 どうして、私は敵からパスを貰っているのでしょうか。

 いいですか。一度しかいいません。これはいじめです。立派ないじめです。いじめてる側は、いつだってその事実に気が付いていません。被害者だけが、孤独に苦しんでいるのです。いいですか先生。私は今苦しんでいるのです。決して、今度こそシュートを決めようと意気込んでいるのはありません。助けを求めているのです。決して、助言を求めているのではありません。

 そこから先の記憶はありません。果たして、私はシュートという呪縛から解き放たれることはできたのでしょうか。解放されたのでしょうか。

 一体あれは、なんの時間だったのでしょうか。

 どうして先生は、こんなゴミみたいな私にAAの評価をくださったのでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?