コロナ当事者

久々にしんどかったのは、コロナの疑いがかかったからだ。

2日前の休日、友人らと食事をしたりドライブを楽しんだりした。

その夜、職場から『社内でコロナに感染者が出た。会社を消毒するので明日は自宅待機で』という内容の電話があった。

続けてその人が『あの〜…それと…』……

…めちゃくちゃ不穏な空気を流してくる。


わたしはその感染した人と同じフロアで仕事をしている。
特段、仲が良かった訳ではないが何人かのグループでお昼を摂った。
フロアも食堂も席同士の距離は取ってあり、席ひとつ毎にアクリル板が置かれている。
特段、仲が良かった訳では無いので話も殆どしていない。


でも、マスク無しで（だって、ご飯食べてるからさ）15分以上の会話。など色々ある保健所が定めた定義にはまった為、その日、とつぜん濃厚接触者となった。


突然のことで何をするべきか分からなかったが、何かあってからでは遅い。今日一日遊んだ友人らに報告しなくてはと思った。

これが始まりだった。





「えー！今は大丈夫？熱とかない？ご飯しっかり食べて！」
「突然でビックリだけど落ち着いて」
「私たちも気を付けるし、何かあれば言うね」

心配してくれたり、気遣ってくれたりする人もいたが

『うわー！こわ！夏の予定全部キャンセルするわ。めっちゃいっぱい予定あったのに…最悪』
『えーまじ？信じらんない、うちの家族持病持ってるんだけど…』
『明日も車使うのにー…全部消毒してくるーこわーほんとヤダ』
『あーあー。とりまPCRの結果出たらすぐ教えて』


ドンと、低く心臓が鳴った。
友人らの約半数が明らかな怒りを示し私に苛立ちをぶつけて来た。

まだ何も分からない状態だったのに、私はキャリア（ウイルスを保菌してるけど発病してない人）とみなされた。


悪く思われる可能性は十分あると踏んでいた。
でも直接は言ってこないはず。影で何か言われるかもなぁ…位の想像はしてた。


その想像を遥かに超えた対応に、冷静さを保てない。



コロナかもしれない事実と、友人らの言葉。
どちらも悲しくて目眩がした。なんて返そう、何を言おう。動悸がすごい。動けない。



震える指で『ほんと迷惑かけてごめん…
体は大丈夫だから、また結果分かれば連絡するね〜』

やっとの思いで言葉を絞り出し、送信しようとしたところで「…これ謝っちゃいけないやつだな」そう思った。


なんか悪いことしたか？
仕事してたらその場に感染者がいて、お互いが知らずに過ごしていただけ。


感染したかもしれない日、みんなで遊んだその日だって、わたしはいつもマスクをしていたし検温も消毒もしていた。

意図的に、または薄々ヤバいかもと思いながら人と接してた事は一度だって無い。



わたしは悪くない。
謝る必要はないと思い、ごめんの文字を消して送った。


昨日は、心配してくれた数人から連絡が来たけど、苛立ちを見せていた友人らからは何のアクションも無かった。

そして今日、はやくもPCR検査を受け陰性の結果が出た。ホッとした。
医療従事者のみなさんの迅速な対応に感謝。

ちなみに検査を受けに行く為に、交通機関はつかえないので会社から配車され送ってもらった。
車中で「新形コロナって車種、トヨタが出したら売れそうですよね」と会社の人に言ったら信じられないくらいスベった。
これ別にスベるスベらんの話じゃないだろ、相槌くらい打ってくれと思った。


話を戻す。
みんなに早く報告しなきゃと『陰性！お騒がせしました〜』と連絡を入れた。



おー良かった！お疲れ様〜！一安心だね。
など全員がいつもと変わらない様子で話し続けていた。



苛立っていた友人のうちの一人が
『大変だったね、こればっかりは誰のせいとかないからね〜』と言った。

きっと、とっさの発言でわたしを傷付けてしまったと感じていたんだろう。

でも今日一日一緒にいた人間に「わたし、どうやら濃厚接触者のようです」なんて言われると焦るし、友人らの対応は仕方の無い事だったと思う。

自分ですら、自分のことをムダに責めたし罪悪感も持ってしまった。
自分にかわいそうなことをした。

でもこれだけは言える。言えるというか、全感染者、その親族に言いたい。聞いて


『みなさんは何も悪くない』


この言葉は、感染してない、疑いすらかけられた事のない人にはきっとそんなに響かない。
そうだよな〜位は思っても、心にまでは届かないはず。

だってわたしがそうだった。
最初に電話もらった時、勘弁してよ…とか思ってた。

でも、今のわたしは人を想える。
差別意識のある感染症の疑いをかけられるという経験が、想像力の幅を広げた。


経験しないと分からない事は多い。
人の気持ちになって考えることにも、限界がある。

人は経験して優しく、強くなる。
想像通りになるほど、人の想像力は豊かじゃない。


感染した同僚（もう治ってるらしい）にも、罪悪感を感じて欲しくなくて初めてLINEを送ってみた。


『わたしは陰性でした！
お具合はいかがですか？以外の何か気の利いた事を言いたいのですが…
とりあえず、今回の一連の流れを一緒にマスメディアへ売り込みましょう』


今のところ返事はないが、べ…べつに想像通り。