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辻村深月本②「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」

 辻村深月は、無意識の中にある人の心をいとも上手に表現する方だ。
母と娘、東京と地方、女の恋愛観.…コンプレックスが刺激されるほどに、痛いところを突いてくる。

 この本は、母を殺した幼馴染を探す女性が、関係者と会話形式で様々な人の「無意識の価値観」が表出していく話。

”私はここじゃない、私は彼女たちとは違う”

幼馴染を探す主人公は、東京の大学に進学しフリーのライターになったものの、地元に戻って地元の友人の集まる合コンに参加する主人公。地元の友人は皆、目に見えるものしか知らず、物理的に手の届く範囲から進学も就職も決めた。事務職の契約社員で毎日ルーティンワークを送ることに不満を言い合い、「共感」し合う。主人公も、ただ合わせる。だが、本音は、「私は違う。東京に帰るんだ。ここじゃない。」
そして彼女は、兄の後輩の、東京勤務の旦那を見つけて、再上京する。彼女の思う「良い人」と巡り合えて。

卑怯な男に搾取される女たち

母を殺した幼馴染は、モテてこなかった。地元の短大を卒業し、縁故採用で契約社員を1年ずつ更新し事務職として働くチエミ。
本社が東京にある大手企業勤務の男性と交際し、本社に戻った途端にフラれた。彼は、地方赴任の間にも東京に本命彼女がいて、チエミはほぼ「セフレ」。大切にされていないことに薄々気づきながらも、周りの友人には絶対に悟られたくないチエミ。彼にこだわったのは、自分を選ばないような「良い人」が自分を好きでいてくれることが嬉しかったから。その優越感に浸って、自己肯定感を高めていただけなのだ。自分を選ぶような相手なら、満足しない。
そんな彼女の想いを見透かし、「夢をみさせてやった」と何も悪びれない彼、そんな男にすがる彼女。どちらも醜いと思った。「良い人」とは一体.…

「チエミの中に自分を反射して見ないで」

主人公が、他の友人に言い放った言葉だ。チエミの家は、親との距離が近く、何でも親に相談する。合コン中も、今日はどんな人がいて、どんな様子か報告する。仕事の送迎もしてもらう。そんな彼女の家を、「異常だ、普通ではない」と言う。同時に、「自分とは違う」と差別化する。人の振り見て我が振り直せ、という言葉もあるが、主人公の言葉は、他者の中に自分を映して自分の方が上に立とうとする気持ちを言い得ているのではと思った。

やはり、辻村深月さんの言葉は強い。



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