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小説OJTポリス(警察学校編03)

 ここで、本編の主人公である南野之介巡査部長について触れておこう。

 南野巡査部長は、警察社会における「主任」クラスにあたる。因みに警察の階級は上から

 警視総監(階級と職名が同一。警視庁のトップ)、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、巡査(巡査長というのがあるが、これは職名であって階級ではない)

 となっており、南野は下から2番目で府中駅で会った同期の英梨 透は警部補である。

 南野巡査部長は、今でこそ「専科要員」として「ウダツの上がらない」立場にあるが外国語系の大学出身者で英会話はTOIEC870点、英検は準一級、実は外務省への出向経験も有しており巡査部長合格は24歳とかなりのスピードで昇任したいわゆる「エリート」なのである。そのまま順調に行っておれば今ごろは悪くても警部補、良ければ警部に昇任できていたはず。。。だったが、後で詳しく述べる「事件」がきっかけで35歳になった今では赤坂署内の問題児扱いとなってしまっていた。

 また、南野は語学力だけでなく捜査感覚も抜群で警察学校を出てから新任地として赴任した原宿署では、なんと署長表彰だけでも40回を超えるという意味では50年に一度の逸材と騒がれた過去をもつ。自転車盗、無免許違反、飲酒運転、少年補導、覚せい剤犯人検挙、侵入盗検挙などなどあげたらキリが無いくらい多くの事件検挙功労を有しているので、「人は見かけではわからない」典型なのかもしれない。加えて南野には大学時代に培った海外の人脈と情報線があり、それこそ4万6千人以上もいる警視庁の警察官の中でも際立った執行能力を持った男である。

 南野の話はこれくらいにしておこう。

 府中駅から朝日町の警視庁警察学校に向かう途上、同期生の英梨警部補は重い口を開いて次の話を南野に語り始めた。

 事件の概要は、こうだ。

 警視庁では通常年3回採用試験を行い、合格した者を「初任科」と呼ばれる過程に入校させる。短期課程(大卒など)は半年間、それ以外は8ヶ月間ここ府中市の警察学校で学科と術科の両面で鍛錬し、一人前の警察官に育成している。

 ここで「育成」と書いたが、警察学校は職業学校であり警視庁巡査を拝命したその日から俸給すなわち給与が支給される。制服などの被服、靴、「三種の神器」と言われる警察手帳、手錠、拳銃も貸与されるのだが、これらを貸与しても良い人材がどうかを見極めるのも警察学校の設置目的である。すなわち、警察学校とは、育成もさることながら本来の目的は

  不適格者の排除

なのである。「学級」と呼ばれる警察官の卵たちを担当する担任教官たち(警視庁では教場という)は自らに与えられた6ヶ月または8ヶ月の間に警察組織に混入した敵組織のスパイや警察が事前に実施した身元調査を巧みに掻い潜ってきた前歴者や不逞の輩、不適格者をいち早く見つけ出し「排除」すなわち「解雇」するという重大な任務を帯びているのである。

 (つづく)


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